2012年4月10日火曜日

研究分野としての「包括的ビジネス」

「包括的ビジネス」の研究とは一体何なのか。それを経営学分野の研究対象としてとらえる場合、1)複数の既存分野の組み合わせで分析可能なのか、2)それとも独自の従属変数を想定する独立した領域を成立させるのか。こうした問題意識に応えたのが下記の論文。

岡田正大(2012) 「『包括的ビジネス・BOPビジネス』研究の潮流とその経営戦略研究における独自性について」『経営戦略研究』, 第12号 (2012年7月 forthcoming)


概略を述べると、包括的ビジネスの研究には少なくとも次のような学問領域での考察が必要となる。


 上記の論文では、特に戦略分野に関係の深い1)企業戦略理論、2)企業の社会的責任と経済的パフォーマンスに関する研究、3)包括的ビジネスそのものの帰納的研究、4)新興国市場研究、以上4分野を取り上げている。これらの領域で網羅的に文献調査を行うことにより、包括的ビジネスが独自の学術分野(discipline)として成立するか否かを論じている。

結論として、包括的ビジネスは「領域学」としては成立可能であるものの、独自の因果関係を想定する「独立したdiscipline」としては成立しえず、企業活動の経済性と社会性を巡る新たな因果関係を模索する、上位の学術領域に属するサブカテゴリーであると考えられる。

 この「企業活動の経済性と社会性を巡る新たな因果関係を模索する、より上位の学術領域」は、既存の戦略理論の根幹にある因果関係に修正を迫る可能性があり、さらに研究を継続する必要がある。

発刊前のため、上記論文に関連する参考文献のみダウンロード可能。

戦略理論の体系と「共有価値」

Porter & Kramer (2006, 2011)の主張する「共有価値」の概念は、包括的ビジネスの理解にとって重要なキーコンセプトの一つであると指摘した。

この共有価値という概念は、既存の戦略理論の体系の中でどのように位置づけられるのだろうか。下記の論文は巨視的に戦略理論を体系化する中で、共有価値概念の意義を論じたもの。既存理論の体系化に続き、「共有価値」を第4世代の戦略理論ととらえ、既存理論との関係や、その主要な因果関係について述べている。

岡田正大(2012)「戦略理論の体系と『共有価値』概念がもたらす理論的影響について」『慶應経営論集』, 29(1): 121-139. (PDFでダウンロード可能)