2012年11月27日火曜日

ガーナ・タコラディのAudioCraft社


<AudioCraft社 (ガーナ・タコラディ)の紹介>
(2012年8月のフィールド調査から)

 Lemaire社長は元々高校教師(2番目の写真中央)。いわゆる企業家精神に燃える「中小企業の熱血型ものづくりおやじ」である。ガーナの治安悪化でナイジェリアへのがれ、そちらで教職に就くが、その間にナイジェリア―ガーナ間の貿易の有効性に気付いて貿易会社を創業、独立する。しばらくはオーディオラウドスピーカー(屋外用)をナイジェリアからガーナへ輸入していたが、「母国ガーナに豊富にある高品質で安価な木材を使って、スピーカーボックスを内製できるのでは」と思い立ち、Audiocraftを創業。自宅兼工場で月80台程度エンクロージャー(ボックスのみ)を製造しナイジェリアのメーカーへ輸出している。製造ではTakoradi工業高校に設置されたMITのFabLabでの知識が役に立ち、NC制御による加工技術を身につけ、CNC加工機(中国製)の台数を増強中である。今後完成品スピーカーの開発・製造へ向け、スピーカーユニットの内製も視野に入れており、日本のオーディオ機器メーカーとの連携を希望している。ちなみにラウドスピーカーの最大顧客は教会で、讃美歌(ゴスペルと呼んでいいのか??)の吟唱やバンド演奏用だそうだ。

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2012年11月26日月曜日

ソニーが北・東アフリカで二ケタ成長(週刊アフリカビジネスより)

サムスンやアップルとの競争が激しい中、ソニーは北・東アフリカで二ケタ成長をしている。モロッコ、アルジェリア、ケニアの成長が著しいという。手持ちビデオカメラ市場では、ソニーはサウジアラビアで72%、UAEで40.6%のシェアを占めている。

週間アフリカビジネスへのリンク(無料バージョンもできたようだ)

記事へのリンク
http://www.thenational.ae/thenationalconversation/industry-insights/technology/mena-market-in-focus-for-sony


感想:中近東・北アフリカ市場と、サブサハラ市場は別ものだが、上記の記事でやはり目を引くのはケニア市場の成長ぶりである。今年8月にガーナのスピーカーボックスメーカー(Mr. John Lemaire, the CEO,  AudioCraft)を訪ねたとき、ナイジェリアもケニアも音楽や音響機器の一大市場だと興奮気味に語っていたのが印象的だった。日本の音響機器メーカーとの提携・協働を望んでいたが、興味のあるメーカーはないだろうか(次のエントリーで同社を紹介)。


バングラデシュ ダッカ郊外 縫製工場の大火災

110名以上が亡くなったという。こういう時こそ、日本企業には率先して工場の安全レベル向上のイニシャチブをとってほしいものだ。縫製工場が軒を連ねる同地域。

http://www.nytimes.com/2012/11/26/world/asia/bangladesh-fire-kills-more-than-100-and-injures-many.html?_r=0




2012年9月13日木曜日

ヴィントン・サーフ (インターネットの父、グーグル副社長)

「現在、地球の人口は70億人です。そのうちインターネットを使っているのは30億人。私は、残り40億人の人々がインターネットを使えるようにすることに、今後の人生をかけます。」
ヴィントン・サーフ 2012年9月13日NHKテレビ『Bizプラス』でのインタビュー)

2012年8月21日火曜日

EUによるアフリカ戦略

米国、日本、欧州それぞれのアフリカ戦略をリストしないわけにはいかない。
欧州連合のアフリカ戦略は"EU Strategy for Africa"(2005)である。

3rd Africa-EU Summit 2010


日米の文書に比べると、アフリカの政治経済社会の分析を前段でしっかり記述しているところに特徴があるが、安全保障・平和・ガバナンスの重要性、それを前提とした経済発展による開発の進展、貧困からの脱却、というシナリオは3つとも共通している。

3者にどのような違いがあるのか、いかなる領域で温度差があるのかについては、後日吟味して私なりの感想をアップしようと思う。

日本政府によるアフリカへの行動計画/TICAD

 ご承知のように、日本政府が主導し、国連・国連開発計画(UNDP)・世界銀行等と共同で開催されているアフリカ開発会議がある。TICAD IV 横浜行動計画(2008)が敢えて言えば米国のサブサハラ戦略書に匹敵するものと思われる(非公開の政策文書があるのであれば、それは知らない)。

 TICAD V は来年2013年。日本でも既に様々なイニシャチブが日本政府国際機関のみならず、市民セクターレベルでも始まっている。

TICAD IV (2008) 開会における福田首相(当時)演説:こちら

TICAD IV 横浜行動計画(2008)  PDF版はこちら
前文に続き、
1.成長の加速化
2.貿易・投資・観光
3.農業・農村開発
4.MDGs達成
5.教育
6.保健
7.平和の定着とグッドガバナンス
8.環境・気候変動問題への対処
9.パートナーシップの拡大

 上記各項目ごとに2010年から2015年までの行動計画が詳細に記述されている。内容的には大変に充実しているが、 米国の見せ方と比べると、日本のリーダーシップがあまり強く感じられないのは私だけだろうか。前文の5に日本政府の強い態度表明が登場するが、これを最初に言うべきという気もする。行動計画の別表には「実施主体」が明記されているが、様々な組織に分散している。これは共同開催という性格がそうさせているのだろう。TICAD V では政治・経済両面にわたって日本の明快で強いリーダーシップ・メッセージを期待したいところだ。

 素晴らしいのは、きちんとしたフォローアップがなされ、言いっぱなしにはなっていないこと。毎年進捗報告書が出ている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/tc4_followup10digest_jp.html

TICAD IVの動画を探したが、U2のボノのスピーチしか見つからなかった。

米国政府によるサブサハラアフリカへのコミットメント/国家戦略

オバマ大統領の2009年ガーナの首都アクラでの演説:


米国政府は、大統領の直接的指令の下に国家戦略としてサブサハラ諸国への政治経済上のコミットメントを表明している。上記2009年のオバマ大統領のスピーチを実行するため、既に進行中の様々なイニシャチブ(下記注)を統合する戦略構想として、「サブサハラアフリカへ向けた米国戦略(U.S. Strategy Toward Sub-Saharan Africa)」が大統領政策令(Presidential Policy Directive)として2012年6月に発表されている。

本戦略書に記述される4つの基本方針は下記の通りである。

1)民主的制度の強化
2)経済成長・貿易・投資の刺激・促進
3)平和と安全保障の強化・促進
4)社会的弱者への機会均等と開発の促進

4つは密接に因果関係を形成するが、特に2)と4)は本フォーラムのテーマである途上国低所得層における社会問題解決と営利ビジネスの両立にとって直接的に関わりがある。特に2)において、中小規模企業への支援をうたっているところが印象的である。

それにしても、あらゆる関連領域の政策群・イニシャチブ(下記一覧参照)を地球規模で効果的・重層的に組み合わせ、分厚い政策・国家戦略をパッケージング&プレゼンする能力が高いと感じる。


注)特に2)と4)に関連する米国独自ないし多国間イニシャチブとしては、下記のようなものが本国家戦略の記述内に登場する。

基本方針2)関連

Extractive Industries Transparency Initiative
Open Government Partnership
New Alliance for Food Security and Nutrition
Partnership for Growth
U.S.-East African Community Trade and Investment Initiative
African Growth and Opportunity Act beyond 2015
Generalized System of Preferences beyond 2013
African Competitiveness and Trade Expansion Initiative

Doing Business in Africa Campaign

基本方針4)関連
Presidential Policy Directive on Global Development
Global Health Initiative
Feed the Future
Global Climate Change Initiative
June 2012 Child Survival Call to Action
President’s Emergency Plan for AIDS Relief
President’s Malaria Initiative
AIDS prevention targets announced on World AIDS Day in 2011
African Women Entrepreneurship Program
U.S. National Action Plan on Women, Peace, and Security
President’s Young African Leaders Initiative

本国家戦略に関する政府主催公開討論会の模様:





2012年8月20日月曜日

「グローバル人材」なるもの

 日本では今、「グローバル人材育成」が花盛りだ。企業戦略の視点で今の現象を眺めていると、日本の伝統的大企業に求められているのは、単に個人のレベルで英語や中国語、特定国の事情に通暁している人材を育成することだけではなかろう、と感じる。

 企業戦略の視点からは、「地球規模市場の視点に立って、いかにすれば自社固有の資源をベースに経済的価値を最大化できるのか、新たな事業機会は何なのかを洞察する能力・時代感覚・識見・感覚」が肝要だろう。これが現時点での、企業戦略の観点から求められる「グローバル人材」の真価と思われる。「現状打破のリスクを恐れない、地球規模の戦略感覚を持ったリーダー」が求められている。

 その上で、各地域別・機能別の分業体制が敷かれ、それに応じた特殊能力の育成が必要になるのは言うまでもない。

 当研究室がアフリカへの調査を複数回行う(今後も)のは、何もアフリカが有望市場だからという単純な理由だけではない。より上位の文脈として、地球規模で戦略を発想する際に必要不可欠な情報量が、圧倒的に不足しているのがアフリカ諸国だ、という自覚があるからだ。多くの経営幹部との対話を通じ、地球規模で事業機会を発掘し、意思決定の俎上に載せようという際に、同地域に関する知見がいまだ十分に集積されていないケース(研究者としての私自身を含む)が非常に多いと感ずるからだ。(もちろん先進的例外は日本にも少なからずあるが。)

 であるから、ある企業がアフリカへの知見を深めたとしても、経営意思決定の結果としては、その企業にとってはアフリカの特定の国々は戦略上の優先順位が低いと判断され、「現時点では関与せず」という結論も当然あり得る。しかしそれが全地球的に複数の事業機会を十分に精査した結果の合理的判断であれば、それで全く問題はない。

 問題なのは、情報不足故か個人的好み故か、特定の地域(例えばアフリカのサブサハラ諸国)を無意識に最初からオミットしてしまい、自社の「潜在的」活動領域を自ら狭め、事業展開の可否判断の俎上にすら乗せないことである。


2012年8月19日日曜日

第5回フィールド調査


岡田研究室では、2012年8月の第1・2週にわたり、タンザニアとガーナにおいて第5次のフィールド調査を行った。今回のインタビュー調査対象は下記の企業・組織・人であった。各地でのビジネス実態と消費者の購買意思決定プロセス(特に企業とその製品の社会性の持つインパクト)を調査し、それらが先進国市場における製品開発やリバースイノベーションに、そして国際間分業にどう影響を与えるかを研究するためである。


タンザニア

1)Tingatinga Arts Cooperative Society: Abdallah氏(同ソサエティー組合長)。
60年代末から72年に死去するまでの数年で独自の画風を確立して注目されたティンガティンガ氏とその弟子たちが絵画工房を立ち上げ、作品製作とその販売流通を行っている。数10名のアーティスト(作品の売上が収入)と100名前後の弟子(授業料を支払う)により構成される。アーティストの大半は初等教育を満足に受けていない。現地に根差したガーナ発アートビジネスとして拡大を目指すが、流通チャネルの限界と経営人材の欠如がボトルネックとなっている。他にアンケート調査も実施。

2)Solar Aid Tanzania (NGO, 本拠地イギリス): Mr. Tom Peilow, Finance Manager 他。
すでに第2次調査でインタビューしたD. Light Design社を再訪するつもりであったが、同社は既にタンザニアから撤退し、その商圏を譲り受け、ディーライト製ソーラーランタンを新たなマーケティング手法で拡販しようとしているのがSolar Aidである。Solar Aidは、ディーライトが新たなディーラー網構築に腐心し、それを断念した市場で、全く異なるマーケティング手法(学校経由)を生み出し、急速に成長中である。今後ソーシャル・エンタープライズ化を目指すという。本調査内容はディーライトデザイン・タンザニア(慶應ビジネススクールケース教材)の続編として教材化する予定である。今回の調査では、BOPにおける販売チャネル構築でいかに即興的な創造性が重要かを学ばされた。他にアンケート調査も実施。

3)郊外住宅密集地の一般家庭
「企業(ブランドイメージおよび製品)の社会性が購買意思決定にどのように影響するか」に関するアンケート調査を実施。現地高校生2名と婦人の個人事業主(雑貨店経営)に対し。2人の高校生の知識や職業意識の高さに研究チーム一同脱帽。優秀だった。このコミュニティで一番困っていることは?との問いには、「道路が舗装されていないので、物資の輸送コストがかかりすぎる」(婦人)と、「水道の未整備」(全員)を指摘。1km先には水道管が来ているが、そこから先が未整備だと言う。水の販売業者(中国資本)がくまなくコミュニティをカバーしていた。

ガーナ

3)Winglow Clothes and Textiles Limited: Mrs.Awurabena Okrah, CEO (Executive member of Association of Ghana Industries)
ガーナ企業。同社はCEOのOkrah氏が創業。生地に刺繍を施す布地の自社生産に強みがあり、より高級な婦人服・紳士服が主力商品である。ガーナ市場と輸出市場双方に注力。ガーナ人による独立企業として、いわば現地発個人事業成功のロールモデルとなるべき会社である。特に同社CEOのMrs. Okrahは、思慮深くかつ起業家精神あふれる経営者であった。現在新規事業立ち上げ中。元教員。

4)Takoradi Technical Insutitute(TTI)内のFabLab Ghana:TTI校長およびFabLab所長。
MITのCenter for Bits and Atomsが主催する「ネットデータの物質化」に着目したFab Labが、ガーナにも存在する。ファブラブは3Dレーザーカッターなど、デジタルデータを物質化する機器を標準装備する工房。本ラブは工業高校内にあることもあって教育目的が主だが、周囲の企業にも技術知識を伝播する役割を担っていた。岡田研究室では、ファブラブがいかに地域の起業家を輩出・育成することに役立つのかが研究上の関心であった。同ファブラブに刺激を受けて、新たな事業投資を行った地域企業があると言うので、下記企業をさらに調査。

5)Audiocraft: John Lemaire氏, CEO
ガーナ企業。同社は、Lemaire氏がナイジェリアで教員をしながら商機に目覚め、ナイジェリア・ガーナ間の商社を立ち上げたことが発端。その後専業となり、ガーナには豊富な木材と労働力があるにもかかわらず、音楽用スピーカーをすべてナイジェリアから輸入している実態に疑問を感じるように。とうとう国内木材にこだわったスピーカーボックス製造販売事業を設立。個人起業家の成功モデルである。現在はスピーカーユニットは外部調達しているが、現在内製を目指して部材の調達を思案中である。ナイジェリアの音楽機器市場が主要ターゲットとなる。日本企業との連携を模索。

6)Plan Ghana (NGO): 在Winneba、Central Region長
子供の福祉増進を主眼に活動する国際NGOのガーナ支部に4つある地区(region)の一つCentral。味の素㈱は、ガーナ大学と共同開発している乳幼児向け栄養強化食品(現地の流動食であるココに加えるパウダー)の効果測定を、プランガーナに依頼して大規模に行っている。ところで、今回はその農村部での栄養学調査を見学する予定だったが、調査前々日に、ガーナ入国前に現職で死去したミルズ大統領の国葬(=国民の休日となり全員に喪に服すよう通達が出る)がその日に挙行されると決定し、現場への来訪はすべてキャンセルとなった。こういうこともあるんですね。全土が赤と黒の喪章であふれ、ここかしこで派手な音楽が流れた。賑やかに大統領を送るさまを体験。

7)味の素㈱&ガーナ大学:取出恭彦氏、北村聡氏、古田千恵氏
農村部での栄養学的治験の現場を国葬で見学できず、その時間でガーナ大学へ。栄養食品学部(Nutrition & Food Dept.)の一角にある味の素のオフィスを訪ね、ガーナ大の教授も出席の上、プロジェクトの進行状況の説明を受ける。現在は現地企業との提携による製造も始まり、現在のサンプル出荷による治験を経て、本格的な販売を開始する予定。販売においてもNGOとの連携で実証実験を進めている。

8)ガーナの首都アクラ郊外の低所得層コミュニティ
調査最終日には、ガイドと同行しながら空港近くの低所得層コミュニティへ。車座になり、生活の様子や生活上のニーズ、日々の生業(自分のミシンでの縫製業から日雇いまで)についてなど、様々な角度でインタビューを行う。企業の社会性と購買意思決定についてのアンケート調査も行った。人々は最初警戒していたが、我々の現地ガイドがまず単身乗り込み、コミュニティのリーダーにOKを採ると、あとは大変協力的で、日常あまり社会から顧みられないことを不満に思っていたようで、我々の訪問を喜んでくれた。生活実態に触れる貴重な機会。

後日写真をアップする予定。





サムスン電子のアフリカ戦略 その2

同社のアフリカへのコミットメントについては既に触れた通りだが、

8月13日、同社は新たにアフリカ大陸における拡張戦略を明らかにしたようだ。

中央日報8月13日付ウェブ版
サムスン電子 有望市場のアフリカ攻略に注力

同記事によれば、サムスンは1995年にアフリカ市場へ進出以来、2005年にはサブサハラを10番目の地域総括として独立させている。今回サブサハラ戦略の強化策として、次のような体制を構築したという:

「総括」(地域本社)を南ア、「法人」を南アフリカ、ナイジェリア、ケニアの3国に、「分所」をガーナ、セネガル、スーダン、モーリシャス(新設)の4カ国に置く。(これらの国々の選択をサムスンがいかなるロジックで行ったのかを、日本企業は十分に考察すべきと思われる)

同記事によれば、現在のアフリカ市場におけるサムスンの市場シェアは、薄型テレビで38.7%、3Dテレビで57.9%、スマートテレビ(ネット接続あり)が51.3%で、独自集計とはいえ全て1位だ。

サムソンの10地域総括:韓国、北米、欧州、中国、東南アジア、西南アジア、ロシア等独立国家共同体(CIS)、中南米、中東、アフリカ、計10総括。

サブサハラ市場売上目標(2015年):100億ドル(約7800億円)

製品開発に関しては徹底的な現地適合を行うという。

同社の戦略を見るにつけ、果敢に攻める戦略計画をスピード感を持って執行しているように映る。有効なリアルオプションがどんどん手の内に増えていく感じがする。

中韓企業に見られる高いリスク性向、不確実性への積極的関与が、なぜ日本企業では希薄なのか。そこにそれをよしとする長期の計があるならばそれで良いだろう。ならば貴社のそれは何か。

2012年7月24日火曜日

研究分野としての包括的(BOP)ビジネスの独自性

先に紹介した論文の全文がダウンロード可能に。
「包括的ビジネス・BOPビジネス」の研究とは一体何なのか。それを経営学分野の研究対象としてとらえる場合、1)複数の既存分野の組み合わせで分析可能なのか、2)それとも独自の従属変数を想定する独立した領域を成立させるのか。こうした問題意識に応えたのが下記の論文。
包括的ビジネス(BOPビジネス)に関連する諸分野の文献を網羅的に分析した結果、当分野は、戦略理論の見地からは「企業の社会性・経済性」を取り扱う分野のサブカテゴリーであるという結論に至った。

2012年7月9日月曜日

IBMはタンザニアで、サムスンはナイジェリアで


週刊アフリカビジネス第93号(有料レポート)によると、

●IBM: タンザニアの通信科学技術省と業務提携し、同国における技術活用の促進による経済発展に関し提携を結んだ。IBMのプレスリリースはこちら

●サムスン電子:ナイジェリアにおけるソフト開発の中心的存在であるCo-Creation Hub (Cchub) に対し、様々な支援を行う旨のMOUを締結。


ちなみに上記Cchubの支援企業(パートナー)は下記の通りで、米国、北欧、アフリカ等多国籍の非営利財団やIT企業が名を連ねる。そこに今回サムスンが加わった。日本のIT企業は?












詳細は週間アフリカビジネス第93号(有料)参照。

DHBRオンライン新連載第1回 「包括的(BOP)ビジネスとは何か特別なもの?」

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・オンライン

【新連載】第1回:包括的(BOP)ビジネスとは何か特別なもの?

がスタートしました。戦略理論の視点から、企業が包括的ビジネスに参画するか否かの判断基準を多元的に議論するコラムです。

http://diamond.jp/articles/-/21237

2012年6月2日土曜日

ZTEが国際特許出願でパナソニックを抜いて世界一位に

WIPOによると、先に紹介したZTE(中興通訊)が2011年度の国際特許登録の出願件数で、企業としては前年一位のパナソニックを抜いて一位に躍り出たとのこと。ちなみに2011年11月、ZTEジャパンのCTO兼副社長に、日本IBMやシスコシステムズでCTOを歴任した大和敏彦氏が就任している。

こうした世界有数の中国通信機器メーカーが、すでに総売上の2割をアフリカであげている事実にどのような戦略的含意があるのかを、日本の製造
企業は考察する必要がある。



2012年5月25日金曜日

WSJ日本版「急成長目前の世界の『新しい虎たち』」

2012年5月24日の同コラムによると、先進国経済が成熟の極みに達する中で、今後の成長が期待される、BRICsに続く「新たな虎たち」が指摘されている。

<同コラムによる注目すべき国々>

欧州:ポーランド、トルコ
南米:ペルー、コロンビア
アジア:フィリピン、インドネシア
アフリカ:ガーナ、ウガンダ

アフリカに関しては、やはり原油採掘・精製による石油生産がもたらす「オイルマネー」を中心とした経済発展が期待されているようだ。アナリストによれば、そのマネーの使われ方が問題だという。ただ、一部は少なくとも社会資本投資に回るので、それによる経済成長押し上げ効果は期待できるという。

2012年5月23日水曜日

ネスレのアフリカ戦略


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(Nestle南アのウェブサイトから)

「徒歩で、自転車で、タクシーで:ネスレはアフリカで事業拡大(By Foot, by Bike, by Taxi, Nestle Expands in Africa)」と題するこの記事(2011年12月1日)は、先進国や新興国中間層以上向けでは当たり前のモダンチャネル(卸しと量販店からなる流通インフラ)が存在しない領域(すなわち包括的市場もしくは低所得層層市場)での同社の取り組みを紹介している。以下、記事の要点。

■アフリカのチャネル:
アフリカでは都市から離れて暮らす人口も多く、道路自体もあったりなかったりする。一般の多国籍大企業が想定するような供給チャネルは存在しないし、物理的・経済的に構築できない。

■ネスレの「どぶ板営業」部隊:
南アのネスレ販売代理店であるデズモンド・マグワンバン氏は、手持ち金はタクシー代のみ、携帯2台、それに注文票の束を持って営業活動をしている。ヨハネスブルグでも最も治安の悪い地区である。「ここは私の金鉱だ」と同氏。他の通常の営業マンは首都の巨大スーパーの棚をネスレ製品で埋めるべく活動しているが、マグワンバン氏以下80人の営業スタッフは、南ア全土の極小店舗をターゲットにしている。それらの店舗では多くの場合小分けしたネスレ製品(ベビーフード、クリームパウダーなど)が売られている。こうした営業活動により、低所得層でのネスレ製品の認知度と人気は確実に高まっている。

■アフリカ市場の成長性:
ネスレがここまでの努力をするのにはわけがある。市場の成長性である。アフリカ開発銀行によれば、現在のアフリカ大陸人口の61%はいまだ一日当たり2ドル以下で生活する「貧困」状態にあるが、2060年までに、アフリカの中間層(一日当たり所得が4-20ドル、年間1000-5000ドル)は11億人に達し、アフリカ大陸人口の42%を占めると推定される。またIMFの推定によればサブサハラ地域の経済成長は2011年が5.25%、2012年には5.75%と予測され、これは地球全体の年平均成長率4%を上回る。

■他有力企業もアフリカにコミット:
ネスレだけではない。有力食品メーカーは一斉にアフリカ強化に向け動きを速めている。クラフトフーズは、バン部隊を仕立てて、南アの各地方の町の路上小店舗に直接供給するネットワークを構築中である。サムソン電子は太陽光発電で充電される電話を電力供給のままならないケニアやナイジェリアの地域に導入済みだ。コカコーラは小規模店舗への供給のため、アフリカ15か国3200の流通拠点を活用しているという。

■ネスレのアフリカ事業規模:
ネスレは新興国市場(含む包括的市場)からの売上比率が現在の30%から、2020年までには45%に達すると予測している。同社のアフリカでの売上高は、2010年に6.4%増大して33億スイスフラン(約36億ドル、約2,880億円)に達した。一方同期間に同社の世界市場全体の売上成長率は2%だった。世界総売上高(930億CHF)に占めるアフリカの割合は3.5%

■ネスレのアフリカ投資:
過去5年間$850Mを投資し、現地製造、流通網の拡張、現地顧客の好みに合った味の開発を進めてきた。ヨハネスブルグの「どぶ板営業」部隊では、小規模店舗への売上が2011年6月から8月までの2ヶ月で20%増えた。また2011年の1-8月で、南アの小規模店舗でネスレ製品を売る店舗数は2倍に増え、ほぼ4500店に達した。ネスレの南ア販売責任者は現状をして「今の我々は計画の半分に達したところ」と言っている。

■ネスレ製品の販売営業の実態:
どぶ板営業で価格交渉は日常的である。商店主のバルア氏によれば、「ネスレの製品は品質も良いが値段も高い。チコリの根の飲料Ricoffyなどは、値段を下げるとあっという間に売れる」という。他のナイジェリア人の商店主は、ネスレ製品専用の棚を設けている。マグワンバン氏との交渉を通じ、この商店主は$450の注文に対して$30の値引きを獲得した。マグワンバン氏は売上の1%をコミッションとしてネスレから受け取るが、こうした値引きによって「より大きな金額の注文が定期的に取れるよう期待している」と語った。

■製品配送の実態:
こうした小口販売の配送は、そのほとんどが自転車によってなされ、これはネスレのアフリカ全土の配送の30-40%を占めるという。

■アフリカ・インドにおけるネスレの逆境:
ネスレの新興国事業も平坦ではない。ジンバブエのミルク事業では、事業の最低51%を自国の黒人が所有することを求める法律と取り組まねばならず、インドではボトル入り飲料水で競争に敗北し、撤退を余儀なくされた。そして70年代80年代、同社は有名な途上国市場での粉ミルク問題で不買運動を喫する。この経験から、同社は1981年、WHO(世界保健機関)による母乳代替製品の販売に関する規則を世界で初めて採択した企業となった。

■現地店舗の成長:
4年前、ヨハネスブルグのンジョマネ・ドリンクは掘立小屋だった。消費の伸びとともに、同店はマグワンバン氏からベビーフードを月$400仕入れるようになった。その店舗はいまや二部屋のコンクリート製ビルディングになった。

<解釈>
この記事を読むと、なぜ味の素が経営者のトップダウンでアフリカ市場に対してコミットしているかがわかる。サブサハラ・アフリカも、すでに世界企業の主戦場になってきており、そこに早期にコミットしないと、今後の世界市場における競争で不利になるとわかっているからだ。

2012年5月22日火曜日

NHK視点・論点「アフリカとBOPビジネス」と追加情報

5月21日放送。JICAアフリカ部次長 松下篤氏。
詳細にメモを取って視聴したので、以下、追加情報(矢印以下)を付加しつつ要点をまとめておく。

■BOPビジネスとは

1)現地の状況やニーズに合わせた商品を購買力に見合った低価格で提供することにより、消費者としてのBOP層の生活の質向上に貢献するもの⇒BOP1.0 (消費市場としてのBOP)
2)BOP層が生産・流通等に関わる事業者としてビジネスに関わることにより、雇用や所得が創造され、人々の社会的な機会と力(エンパワーメント)を生み出す⇒BOP2.0(事業パートナーとしてのBOP)
3)企業にとっての技術革新や事業拡大の機会。⇒リバース・エンジニアリング、市場創造
4)上記1)~3)の性質を複合的に有するBOPビジネスは、従来の社会貢献活動とは異なる。

■アフリカのBOP層:5億人


■アフリカの経済成長とその要因

実質5%超の年平均経済成長率を記録。この背景には、
1)内発的環境変化(政治経済の適切な運営に向けたアフリカ諸国・人々の行動変化):紛争解決や経済運営に関する政府機能(ガバナンス)の改善、および経済の周縁から中央への参画を希求する人々の意識変化(これにより初等・高等教育での就学率も向上)
2)外発的環境変化:天然資源や輸出農作物の価格上昇、中国・ブラジル等新興国によるFDIの増加(市場としての潜在性・魅力に誘引され)、および情報通信サービスの急速な発展(⇒人々の情報アクセス力の向上⇒内発的意識変化へリンク)

■従来のアフリカにおけるビジネス

 多国籍企業による資本投下で成立し、アフリカ発の製品が先進国の中間・富裕層向けに出荷されるか、アフリカのごく少数の富裕層向けに販売されるパターン。BOP層は市場の外部の存在。ビジネスには参画できなかった。

■アフリカにおけるBOPビジネス

 大企業のみならず、中小企業が主体となって、BOP層を取り込んだビジネススキームが登場。

■日本企業の事例:ウガンダのブッシ(Bussi)島ジャリ(Jali)村
ドライフルーツビジネス。村民300名の年間所得は$110(ウガンダ全体の平均年間所得$500)。子供の多くは栄養失調で、平均寿命は40歳強。現地のオーガニックドライフルーツプロジェクトと日本の中小企業のコラボレーション

Jali Organic Associationと日本の㈱FAR EAST。Jali Organicは、ジャリ村のフルーツ資源を活用して経済発展を目指した同島出身のMuwanga兄弟が1995年に設立。これまで仲介業者に買いたたかれていた現地のフルーツを5-7倍の値段で買い取り、ドライフルーツへの加工を開始。FAR EAST社長佐々木敏行氏が見本市でBE ORGANIC社を仲介に商品を発見し、日本市場への導入を開始。経緯はジェトロのウェブサイト同報告書
に詳しい。フェアトレードの一種。JETROの開発輸入企画の一つ。JETROによる開発輸入企画への支援は1件500万円
⇒このJali Organicが、ジャリ村の生活向上を超えて、どこまで拡張性がある事業なのか、その意図も含めて一度調べてみる必要があるだろう。



味の素㈱伊藤社長のアフリカ戦略

すでに本ブログでは、サムスン電子(韓国)とZTE(中国)のアフリカ市場戦略に言及しているが、味の素(日本)の伊藤社長が本日(2012年5月22日)の日経朝刊で同社のアフリカ戦略について述べている。

■全社の経営目標
売上高営業利益率(11年度6%)とROE(11年度7%)を来期(13年度。14年3月期)にはそれぞれ1%高める目標に向け、構造改革を進める。

■東南アジア・南米
すでに欧米勢に近い利益率を上げている。販売は順調で、今後東南アジアと南米を合わせた利益は日本を超えるだろう。なお、年内にミャンマー工場を再稼働させ、事業を復活させる。

■アフリカ
 5-10年先を見据えた「仕込み」も着実に進める。焦点はアフリカ。従来の西アフリカ(ナイジェリア等)に続き、大陸の北部・東部にも進出する。
1991年に進出したナイジェリアでは2011年度に売上高が100億円を突破した。すでに現地の生活必需品に近付いている。同国での「味の素」の年間販売個数は20億個になった計算。
3年以上先になるが、アフリカでの「味の素」は現地生産に切り替えたい。

<補足>
味の素の連結売上高は1兆1973億円(2012年3月期)、海外売上高は3824億円(対売上高比率31.94%)。ナイジェリア一国での売上高100億円は、海外売上高の2.62%、連結総売上高の0.84%にあたる。
伊藤社長は、アフリカ市場が同社の中長期戦略にとって重要な柱であることを言明している。昨今はようやくアジア新興市場(ボリュームゾーン)へ本腰を入れようという企業事例が続くが、日本にもその先を行く企業がいることに注目したい。
味の素にとっては、CSV(共有価値の創造)を全社的に掲げるネスレが地球規模市場における仮想敵となる。ネスレの連結売上高(2011年度)は83642(百万スイスフラン、約7兆259億円)。内「アフリカを含む」新興市場全体が総売り上げに占める割合は現在30%で、同社は2020年までにそれが45%に上ると予想している。(近々ネスレのアフリカ戦略をWSJの記事からアップ予定)

日本能率協会 BOP懇談会報告書がダウンロード可能に

当サイト発起人の岡田が執筆を担当した報告書:

日本能率協会「BOPビジネスに関する懇談会」研究報告書

『開発途上国低所得層(BOP)におけるビジネスの実現と成功条件について』
(2011年3月24日)

下記のURLでダウンロード可能となりました。
http://www.jma.or.jp/activity/pdf/bopreport.pdf

神戸大三品教授のメッセージ

5月16日の日経朝刊32面(広告企画「選択の時代」)に、神戸大三品教授(専門:経営戦略)のメッセージが出ている。共感を覚えるので部分的に要約・加筆しておく。(⇒部分は岡田記)


■経営者個人の力量がものを言う時代
「社員に委員会を作らせて、事業展開の方向を考えさせる経営者がいるが、そういう経営者は降りたほうがいい。自分自身の責任でこれで勝負するのだという決断ができる経営者でないと務まらない。」
「情報を収集すること自体は重要ではない。情報収集主義からは脱却すべき。時代の節目では、過去の時代の節目に何が起きたのか、繁栄と衰退の分かれ目が何だったのかという大局的な時の流れを理解する目が重要である。」


■新興国におけるポジショニング
「こうした時代に必要なのは、既存事業へのこだわりを捨てるということ。中国などの新興国でも作れるもの、先方に賃金水準などから比較優位があるものにはこだわらないこと。」
「伸び盛りの新興国企業にも不得手なところが残っている。そこにポジションを見つけてすみ分ける必要がある。」
「新興国で出現しつつある中流階級向けの製品、ボリュームゾーンの製品については、日本の優位性はなくなっている。事業分野を絞り込み、その代わり、この分野では世界を制するというような戦略的意図が重要である。」
⇒新興国ボリュームゾーンは製品分野によってはすでにレッドオーシャン化している

■自社独自の経営資源・ドミナントロジックの重要性
「重要なのは『捨てる』という選択。現在一般には環境・エネルギー、医療・福祉が有望と言われているから、その分野に進出しよう、という意思決定の発想は誤り。これらの分野はどの国のどの企業も有望と考えている。」
⇒rent seeking behavior

「マクロの次元で事業選択するのではなく、自分たちのフィールドで、世界に伍してやっていける技術・市場は何なのかを考えること。」
⇒外部環境でなくコアコンピタンス、ドミナントロジックで。「世界」は「地球規模の市場」と捉えたい。

⇒仕事柄多くの経営幹部と包括的市場に関して議論する機会が増えたが、特にがっかりするのは一般的印象で「BOP市場はまだ早い」などと評論し、事業対象としての検討をはなから退けてしまう人がいることだ。包括的ビジネスへコミットするか否かはあくまで自社の経営理念や経営資源、ドミナントロジックとの兼ね合いで決まるものであり、個別企業の選択の問題である。包括的市場への関与が喫緊の課題ではない企業もあるだろうし、今こそ最大のエネルギーを割くべき企業もあるだろう。新興国市場と同時並行で進め、時間差アプローチを画策するべき企業もあるだろう。


2012年4月10日火曜日

研究分野としての「包括的ビジネス」

「包括的ビジネス」の研究とは一体何なのか。それを経営学分野の研究対象としてとらえる場合、1)複数の既存分野の組み合わせで分析可能なのか、2)それとも独自の従属変数を想定する独立した領域を成立させるのか。こうした問題意識に応えたのが下記の論文。

岡田正大(2012) 「『包括的ビジネス・BOPビジネス』研究の潮流とその経営戦略研究における独自性について」『経営戦略研究』, 第12号 (2012年7月 forthcoming)


概略を述べると、包括的ビジネスの研究には少なくとも次のような学問領域での考察が必要となる。


 上記の論文では、特に戦略分野に関係の深い1)企業戦略理論、2)企業の社会的責任と経済的パフォーマンスに関する研究、3)包括的ビジネスそのものの帰納的研究、4)新興国市場研究、以上4分野を取り上げている。これらの領域で網羅的に文献調査を行うことにより、包括的ビジネスが独自の学術分野(discipline)として成立するか否かを論じている。

結論として、包括的ビジネスは「領域学」としては成立可能であるものの、独自の因果関係を想定する「独立したdiscipline」としては成立しえず、企業活動の経済性と社会性を巡る新たな因果関係を模索する、上位の学術領域に属するサブカテゴリーであると考えられる。

 この「企業活動の経済性と社会性を巡る新たな因果関係を模索する、より上位の学術領域」は、既存の戦略理論の根幹にある因果関係に修正を迫る可能性があり、さらに研究を継続する必要がある。

発刊前のため、上記論文に関連する参考文献のみダウンロード可能。

戦略理論の体系と「共有価値」

Porter & Kramer (2006, 2011)の主張する「共有価値」の概念は、包括的ビジネスの理解にとって重要なキーコンセプトの一つであると指摘した。

この共有価値という概念は、既存の戦略理論の体系の中でどのように位置づけられるのだろうか。下記の論文は巨視的に戦略理論を体系化する中で、共有価値概念の意義を論じたもの。既存理論の体系化に続き、「共有価値」を第4世代の戦略理論ととらえ、既存理論との関係や、その主要な因果関係について述べている。

岡田正大(2012)「戦略理論の体系と『共有価値』概念がもたらす理論的影響について」『慶應経営論集』, 29(1): 121-139. (PDFでダウンロード可能)




2012年3月5日月曜日

アフリカビジネスに関する情報ソース

アフリカビジネス専門のコンサルティング会社(事業)が、それぞれ情報発信している。

1)㈱アフリカリサーチ(2010年2月設立)
「アフリカに関するビジネスニュースサイト AFRICA BUSINESS NEWS」はほぼ毎日配信のビジネスニュースが充実している。主席コンサルタントの大津志朗氏は長年のアフリカエキスパート。会社ホームページのギャラリーやインタビューに日付が入っていると、情報価値がもっと高まるのですが。

2)アフリカビジネスパートナーズ(2011年1月設立)
こちらは代表の佐藤重臣氏が個人で営む事業。すでに同氏のメルマガは紹介したが、現在は直接発行の月極め形式に体裁が変更されている。バックナンバーも入手可能


2012年2月13日月曜日

三菱レイヨンが5大陸へ拡販

MSN/産経ニュース

同社のクリンスイ販売地域は、これまで日本・中国等のアジア圏15カ国に限られていたが、今後アフリカを含む5大陸すべてにわたる50カ国にまで本格的に拡大するという。もちろん、例えばアフリカでの展開がBOP2.0のように、バリューチェーン全域で現地コミュニティを包括するかどうかはビジネスモデル次第である。またそもそも包括的市場での販売を意図しているかどうかも詳細は不明だ。だが少なくとも、記事の文面からは、同社が地球人口70億人市場を想起した上で戦略構築しようとしていることが感じ取られ、その意味で重要な事例の一つと思われる。

クリンスイ(↓)



2012年1月5日木曜日

G20 Challenge on Inclusive Business Innovation (G20包括的ビジネスイノベーションコンテスト)

Mr3tiago氏のブログから知る。 このG20包括的ビジネスコンテストのウェブサイトを見ると、内容は以下のようなもの。

このコンテストの意義(私見)新興国・途上国の事業者を、G20という大規模な多国間関係の公式組織の名の下に、「包括的ビジネス」という呼称で顕彰することにより、「包括的ビジネス」という概念の認知がさらに高まるとともに、民間の自助努力による貧困問題の解消と経済発展が促進されることであろう。特に、これまでは先進国の多国籍企業やベンチャー企業に注目が集まる傾向が強い中で、新興国・途上国の事業者にフォーカスしている点が意義深いと思われる。

G20は先進8ケ国+EUに新興経済国11カ国がメンバーとなり、金融と世界経済に関する会合を定期的に持っている。先進国と新興国が協力して広域の持続的経済発展を促進することが目的のグループである。

後援組織:このG20包括的ビジネスコンテストは、IFC(国際金融公社)が仕掛け人のようだ。最初にインド、次にアフリカで応募者によるプレ交流会が開かれるという。応募締め切りは2月末。2012年6月のG20会合(メキシコ)で選抜事業者がお披露目となる。

応募資格は、新興国もしくは途上国の営利企業で、BOP層の人々が供給・流通・販売もしくは顧客として関与しているビジネスを、既に(2009年6月以前から)運営している事業者である。選出されたとしても、金銭的なrewardはない。ドイツで開かれるワークショップに参加したりする機会が与えられるが、基本的なrewardは「G20で認められた」ということで得られるrecognitionであり、「箔」であり、「お墨付き」である。このコンテストで選抜されれば様々な補助金への応募や、資金調達の際に有利にことを運べるかもしれない。

このコンテストの狙いは、

1)成功しているモデル企業をショーケースとして取り上げて顕彰し、広く世界に知らしめることにより、成功するビジネスモデルがさらに多くの国や地域に拡張して行くことを促進すること、

その過程で

2)途上国の包括的ビジネス事業者に光を当て、世界的な認知をすることで信用を高め、その事業の拡張性を一層高めたり、

3)日ごろ国外に出る機会のない事業者同士の交流による学習を促進すること、にあるという。

ウェブサイトを見る限り、政府や非営利組織との連携強化などについては一切触れられていない。


2012年1月2日月曜日

心地よい領域から踏み出して70億人市場へ:日経ビジネスオンライン

日経ビジネスオンライン記者の中野目氏に取材を受け、「地球上70億人を対象にビジネスを開拓する戦略的意図」の重要性を述べたインタビュー記事です。

日本企業が「包括的市場を含む地球全体的視野」に立って、本当に戦略を構築できているのか、というメッセージを投げかけています。

インタビュー記事ですので、反映できていない部分もありますが、補足するならば、70億人市場へ取り組む際に、戦略論上最も重要なのは、「自社独自の経営資源」「自社が最も得意なドミナントロジック」に着目することです。

小型風力発電のゼファー㈱、ベトナムで事業展開

国際協力の求人・就職・転職・キャリアサポートを行うdevexの日本支社ホームページの「開発ニュース」に、日本の小型風力発電機メーカーゼファー㈱ルビナソフトウエアおよび協同組合企業情報センターとの共同事業として、ベトナムに進出する計画が紹介されている。
■典型的なBOP2.0型包括的ビジネス
記事によると、ベトナム中部のホンラオ島に小型風力発電と太陽光発電を組み合わせた自立型電源を設置(将来は小型水力の組み入れも検討)し、自然に恵まれた同地で漁師が捕獲した海産物を冷凍保管する設備を運営する。これまでは非電化地域であるため冷凍・冷蔵保管ができず、余剰の海産物は廃棄されていた。本事業を通じ、内地はもとより輸出を視野に展開、今後はより高付加価値の海産物加工事業にも乗り出す計画だという。JICAの2011年度FS事業に認定されている(上限 5000万円)
この事業計画では、地元の漁師がバリューチェーンの重要なプレーヤー(供給)として組み込まれており、販売事業での新規雇用も想定される。さらに加工業まで発展した場合にも新たな雇用(生産)が現地で創出される。典型的なBOP2.0に該当する包括的ビジネスといえるだろう。

■当該国人材との人間関係の重要性
一つ重要な意味で興味深いのは、今回の共同事業者であるルビナソフトウエアの代表者(ブイ・トラン・ルオン氏)がベトナムからの留学生として東工大博士課程出身という点だ。実は今回の案件は、ホンラオ市長からルオン氏に直接持ち込まれたということだ。
なぜこの情報が重要かというと、途上国への事業進出の場合、現地情報は先進国に比べて圧倒的に不足しがちであるため、当該国出身者と協力関係にあることが極めて有効に作用するからだ。
例えば、これは純粋な企業事例ではないが、九州大へのグラミンクリエイティブラボ設置や、共同研究プロジェクト「開発途上国の社会情報基盤構築」の実現に役割を果たしたのは、同大のアシル・アハメッド特別准教授(バングラデシュ出身)である。
また、筆者が近畿経済産業局のBOPセミナーで講演した際、講演者のお一人だった㈱サニコン(浄化槽事業)の假谷社長(当時)が同様のことをおっしゃっていた。同社は、1997年に国際環境技術協力を目的にベトナムより研修生を受け入れ、ホーチミン工科大学の日本工業技術研究所設立に出資するなどした。それがベトナムとの人脈形成に決定的な役割を果たし、2008年のサニコンベトナム設立につながったという。
国費の研修生や留学生は一流の人材であることが多く、政府や各機関とのつながりも強い。そうした人材をまずは日本で受け入れてみることが、思わぬ大きな機会へつながることもある。何事もリアルオプション的発想で。