2012年8月21日火曜日

EUによるアフリカ戦略

米国、日本、欧州それぞれのアフリカ戦略をリストしないわけにはいかない。
欧州連合のアフリカ戦略は"EU Strategy for Africa"(2005)である。

3rd Africa-EU Summit 2010


日米の文書に比べると、アフリカの政治経済社会の分析を前段でしっかり記述しているところに特徴があるが、安全保障・平和・ガバナンスの重要性、それを前提とした経済発展による開発の進展、貧困からの脱却、というシナリオは3つとも共通している。

3者にどのような違いがあるのか、いかなる領域で温度差があるのかについては、後日吟味して私なりの感想をアップしようと思う。

日本政府によるアフリカへの行動計画/TICAD

 ご承知のように、日本政府が主導し、国連・国連開発計画(UNDP)・世界銀行等と共同で開催されているアフリカ開発会議がある。TICAD IV 横浜行動計画(2008)が敢えて言えば米国のサブサハラ戦略書に匹敵するものと思われる(非公開の政策文書があるのであれば、それは知らない)。

 TICAD V は来年2013年。日本でも既に様々なイニシャチブが日本政府国際機関のみならず、市民セクターレベルでも始まっている。

TICAD IV (2008) 開会における福田首相(当時)演説:こちら

TICAD IV 横浜行動計画(2008)  PDF版はこちら
前文に続き、
1.成長の加速化
2.貿易・投資・観光
3.農業・農村開発
4.MDGs達成
5.教育
6.保健
7.平和の定着とグッドガバナンス
8.環境・気候変動問題への対処
9.パートナーシップの拡大

 上記各項目ごとに2010年から2015年までの行動計画が詳細に記述されている。内容的には大変に充実しているが、 米国の見せ方と比べると、日本のリーダーシップがあまり強く感じられないのは私だけだろうか。前文の5に日本政府の強い態度表明が登場するが、これを最初に言うべきという気もする。行動計画の別表には「実施主体」が明記されているが、様々な組織に分散している。これは共同開催という性格がそうさせているのだろう。TICAD V では政治・経済両面にわたって日本の明快で強いリーダーシップ・メッセージを期待したいところだ。

 素晴らしいのは、きちんとしたフォローアップがなされ、言いっぱなしにはなっていないこと。毎年進捗報告書が出ている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/tc4_followup10digest_jp.html

TICAD IVの動画を探したが、U2のボノのスピーチしか見つからなかった。

米国政府によるサブサハラアフリカへのコミットメント/国家戦略

オバマ大統領の2009年ガーナの首都アクラでの演説:


米国政府は、大統領の直接的指令の下に国家戦略としてサブサハラ諸国への政治経済上のコミットメントを表明している。上記2009年のオバマ大統領のスピーチを実行するため、既に進行中の様々なイニシャチブ(下記注)を統合する戦略構想として、「サブサハラアフリカへ向けた米国戦略(U.S. Strategy Toward Sub-Saharan Africa)」が大統領政策令(Presidential Policy Directive)として2012年6月に発表されている。

本戦略書に記述される4つの基本方針は下記の通りである。

1)民主的制度の強化
2)経済成長・貿易・投資の刺激・促進
3)平和と安全保障の強化・促進
4)社会的弱者への機会均等と開発の促進

4つは密接に因果関係を形成するが、特に2)と4)は本フォーラムのテーマである途上国低所得層における社会問題解決と営利ビジネスの両立にとって直接的に関わりがある。特に2)において、中小規模企業への支援をうたっているところが印象的である。

それにしても、あらゆる関連領域の政策群・イニシャチブ(下記一覧参照)を地球規模で効果的・重層的に組み合わせ、分厚い政策・国家戦略をパッケージング&プレゼンする能力が高いと感じる。


注)特に2)と4)に関連する米国独自ないし多国間イニシャチブとしては、下記のようなものが本国家戦略の記述内に登場する。

基本方針2)関連

Extractive Industries Transparency Initiative
Open Government Partnership
New Alliance for Food Security and Nutrition
Partnership for Growth
U.S.-East African Community Trade and Investment Initiative
African Growth and Opportunity Act beyond 2015
Generalized System of Preferences beyond 2013
African Competitiveness and Trade Expansion Initiative

Doing Business in Africa Campaign

基本方針4)関連
Presidential Policy Directive on Global Development
Global Health Initiative
Feed the Future
Global Climate Change Initiative
June 2012 Child Survival Call to Action
President’s Emergency Plan for AIDS Relief
President’s Malaria Initiative
AIDS prevention targets announced on World AIDS Day in 2011
African Women Entrepreneurship Program
U.S. National Action Plan on Women, Peace, and Security
President’s Young African Leaders Initiative

本国家戦略に関する政府主催公開討論会の模様:





2012年8月20日月曜日

「グローバル人材」なるもの

 日本では今、「グローバル人材育成」が花盛りだ。企業戦略の視点で今の現象を眺めていると、日本の伝統的大企業に求められているのは、単に個人のレベルで英語や中国語、特定国の事情に通暁している人材を育成することだけではなかろう、と感じる。

 企業戦略の視点からは、「地球規模市場の視点に立って、いかにすれば自社固有の資源をベースに経済的価値を最大化できるのか、新たな事業機会は何なのかを洞察する能力・時代感覚・識見・感覚」が肝要だろう。これが現時点での、企業戦略の観点から求められる「グローバル人材」の真価と思われる。「現状打破のリスクを恐れない、地球規模の戦略感覚を持ったリーダー」が求められている。

 その上で、各地域別・機能別の分業体制が敷かれ、それに応じた特殊能力の育成が必要になるのは言うまでもない。

 当研究室がアフリカへの調査を複数回行う(今後も)のは、何もアフリカが有望市場だからという単純な理由だけではない。より上位の文脈として、地球規模で戦略を発想する際に必要不可欠な情報量が、圧倒的に不足しているのがアフリカ諸国だ、という自覚があるからだ。多くの経営幹部との対話を通じ、地球規模で事業機会を発掘し、意思決定の俎上に載せようという際に、同地域に関する知見がいまだ十分に集積されていないケース(研究者としての私自身を含む)が非常に多いと感ずるからだ。(もちろん先進的例外は日本にも少なからずあるが。)

 であるから、ある企業がアフリカへの知見を深めたとしても、経営意思決定の結果としては、その企業にとってはアフリカの特定の国々は戦略上の優先順位が低いと判断され、「現時点では関与せず」という結論も当然あり得る。しかしそれが全地球的に複数の事業機会を十分に精査した結果の合理的判断であれば、それで全く問題はない。

 問題なのは、情報不足故か個人的好み故か、特定の地域(例えばアフリカのサブサハラ諸国)を無意識に最初からオミットしてしまい、自社の「潜在的」活動領域を自ら狭め、事業展開の可否判断の俎上にすら乗せないことである。


2012年8月19日日曜日

第5回フィールド調査


岡田研究室では、2012年8月の第1・2週にわたり、タンザニアとガーナにおいて第5次のフィールド調査を行った。今回のインタビュー調査対象は下記の企業・組織・人であった。各地でのビジネス実態と消費者の購買意思決定プロセス(特に企業とその製品の社会性の持つインパクト)を調査し、それらが先進国市場における製品開発やリバースイノベーションに、そして国際間分業にどう影響を与えるかを研究するためである。


タンザニア

1)Tingatinga Arts Cooperative Society: Abdallah氏(同ソサエティー組合長)。
60年代末から72年に死去するまでの数年で独自の画風を確立して注目されたティンガティンガ氏とその弟子たちが絵画工房を立ち上げ、作品製作とその販売流通を行っている。数10名のアーティスト(作品の売上が収入)と100名前後の弟子(授業料を支払う)により構成される。アーティストの大半は初等教育を満足に受けていない。現地に根差したガーナ発アートビジネスとして拡大を目指すが、流通チャネルの限界と経営人材の欠如がボトルネックとなっている。他にアンケート調査も実施。

2)Solar Aid Tanzania (NGO, 本拠地イギリス): Mr. Tom Peilow, Finance Manager 他。
すでに第2次調査でインタビューしたD. Light Design社を再訪するつもりであったが、同社は既にタンザニアから撤退し、その商圏を譲り受け、ディーライト製ソーラーランタンを新たなマーケティング手法で拡販しようとしているのがSolar Aidである。Solar Aidは、ディーライトが新たなディーラー網構築に腐心し、それを断念した市場で、全く異なるマーケティング手法(学校経由)を生み出し、急速に成長中である。今後ソーシャル・エンタープライズ化を目指すという。本調査内容はディーライトデザイン・タンザニア(慶應ビジネススクールケース教材)の続編として教材化する予定である。今回の調査では、BOPにおける販売チャネル構築でいかに即興的な創造性が重要かを学ばされた。他にアンケート調査も実施。

3)郊外住宅密集地の一般家庭
「企業(ブランドイメージおよび製品)の社会性が購買意思決定にどのように影響するか」に関するアンケート調査を実施。現地高校生2名と婦人の個人事業主(雑貨店経営)に対し。2人の高校生の知識や職業意識の高さに研究チーム一同脱帽。優秀だった。このコミュニティで一番困っていることは?との問いには、「道路が舗装されていないので、物資の輸送コストがかかりすぎる」(婦人)と、「水道の未整備」(全員)を指摘。1km先には水道管が来ているが、そこから先が未整備だと言う。水の販売業者(中国資本)がくまなくコミュニティをカバーしていた。

ガーナ

3)Winglow Clothes and Textiles Limited: Mrs.Awurabena Okrah, CEO (Executive member of Association of Ghana Industries)
ガーナ企業。同社はCEOのOkrah氏が創業。生地に刺繍を施す布地の自社生産に強みがあり、より高級な婦人服・紳士服が主力商品である。ガーナ市場と輸出市場双方に注力。ガーナ人による独立企業として、いわば現地発個人事業成功のロールモデルとなるべき会社である。特に同社CEOのMrs. Okrahは、思慮深くかつ起業家精神あふれる経営者であった。現在新規事業立ち上げ中。元教員。

4)Takoradi Technical Insutitute(TTI)内のFabLab Ghana:TTI校長およびFabLab所長。
MITのCenter for Bits and Atomsが主催する「ネットデータの物質化」に着目したFab Labが、ガーナにも存在する。ファブラブは3Dレーザーカッターなど、デジタルデータを物質化する機器を標準装備する工房。本ラブは工業高校内にあることもあって教育目的が主だが、周囲の企業にも技術知識を伝播する役割を担っていた。岡田研究室では、ファブラブがいかに地域の起業家を輩出・育成することに役立つのかが研究上の関心であった。同ファブラブに刺激を受けて、新たな事業投資を行った地域企業があると言うので、下記企業をさらに調査。

5)Audiocraft: John Lemaire氏, CEO
ガーナ企業。同社は、Lemaire氏がナイジェリアで教員をしながら商機に目覚め、ナイジェリア・ガーナ間の商社を立ち上げたことが発端。その後専業となり、ガーナには豊富な木材と労働力があるにもかかわらず、音楽用スピーカーをすべてナイジェリアから輸入している実態に疑問を感じるように。とうとう国内木材にこだわったスピーカーボックス製造販売事業を設立。個人起業家の成功モデルである。現在はスピーカーユニットは外部調達しているが、現在内製を目指して部材の調達を思案中である。ナイジェリアの音楽機器市場が主要ターゲットとなる。日本企業との連携を模索。

6)Plan Ghana (NGO): 在Winneba、Central Region長
子供の福祉増進を主眼に活動する国際NGOのガーナ支部に4つある地区(region)の一つCentral。味の素㈱は、ガーナ大学と共同開発している乳幼児向け栄養強化食品(現地の流動食であるココに加えるパウダー)の効果測定を、プランガーナに依頼して大規模に行っている。ところで、今回はその農村部での栄養学調査を見学する予定だったが、調査前々日に、ガーナ入国前に現職で死去したミルズ大統領の国葬(=国民の休日となり全員に喪に服すよう通達が出る)がその日に挙行されると決定し、現場への来訪はすべてキャンセルとなった。こういうこともあるんですね。全土が赤と黒の喪章であふれ、ここかしこで派手な音楽が流れた。賑やかに大統領を送るさまを体験。

7)味の素㈱&ガーナ大学:取出恭彦氏、北村聡氏、古田千恵氏
農村部での栄養学的治験の現場を国葬で見学できず、その時間でガーナ大学へ。栄養食品学部(Nutrition & Food Dept.)の一角にある味の素のオフィスを訪ね、ガーナ大の教授も出席の上、プロジェクトの進行状況の説明を受ける。現在は現地企業との提携による製造も始まり、現在のサンプル出荷による治験を経て、本格的な販売を開始する予定。販売においてもNGOとの連携で実証実験を進めている。

8)ガーナの首都アクラ郊外の低所得層コミュニティ
調査最終日には、ガイドと同行しながら空港近くの低所得層コミュニティへ。車座になり、生活の様子や生活上のニーズ、日々の生業(自分のミシンでの縫製業から日雇いまで)についてなど、様々な角度でインタビューを行う。企業の社会性と購買意思決定についてのアンケート調査も行った。人々は最初警戒していたが、我々の現地ガイドがまず単身乗り込み、コミュニティのリーダーにOKを採ると、あとは大変協力的で、日常あまり社会から顧みられないことを不満に思っていたようで、我々の訪問を喜んでくれた。生活実態に触れる貴重な機会。

後日写真をアップする予定。





サムスン電子のアフリカ戦略 その2

同社のアフリカへのコミットメントについては既に触れた通りだが、

8月13日、同社は新たにアフリカ大陸における拡張戦略を明らかにしたようだ。

中央日報8月13日付ウェブ版
サムスン電子 有望市場のアフリカ攻略に注力

同記事によれば、サムスンは1995年にアフリカ市場へ進出以来、2005年にはサブサハラを10番目の地域総括として独立させている。今回サブサハラ戦略の強化策として、次のような体制を構築したという:

「総括」(地域本社)を南ア、「法人」を南アフリカ、ナイジェリア、ケニアの3国に、「分所」をガーナ、セネガル、スーダン、モーリシャス(新設)の4カ国に置く。(これらの国々の選択をサムスンがいかなるロジックで行ったのかを、日本企業は十分に考察すべきと思われる)

同記事によれば、現在のアフリカ市場におけるサムスンの市場シェアは、薄型テレビで38.7%、3Dテレビで57.9%、スマートテレビ(ネット接続あり)が51.3%で、独自集計とはいえ全て1位だ。

サムソンの10地域総括:韓国、北米、欧州、中国、東南アジア、西南アジア、ロシア等独立国家共同体(CIS)、中南米、中東、アフリカ、計10総括。

サブサハラ市場売上目標(2015年):100億ドル(約7800億円)

製品開発に関しては徹底的な現地適合を行うという。

同社の戦略を見るにつけ、果敢に攻める戦略計画をスピード感を持って執行しているように映る。有効なリアルオプションがどんどん手の内に増えていく感じがする。

中韓企業に見られる高いリスク性向、不確実性への積極的関与が、なぜ日本企業では希薄なのか。そこにそれをよしとする長期の計があるならばそれで良いだろう。ならば貴社のそれは何か。