2010年7月29日木曜日

SKS Microfinace の株式公開

 既報の通り、インド最大手のMFIであるSKSが株式公開。CEOは有名なVikram Akula氏。募集開始は7月28日、機関投資家向けの締め切りは7月30日、個人投資家向けの締め切りは8月2日である。発行株式数は1,680万株。同社は発行価格帯を 850 to 985 rupees ($18.20 to $21.10) と設定している。よって調達資金規模は1株20ドルとして約336M(約300億円)となる。なお、借り手、主に農村の女性が所有する株式の割合は上場後11%に(上場前は40%)。

 このインドで最初(世界では3番目。第1号は2007年メキシコのBanco Compartamos SA)のMFI上場に対しては、賛成の立場と反対の立場があるようだ。

 賛否それぞれの基本的立場は本Blog4月10日で既報の通りだが、今回はグラミン銀行のユヌス総裁が明確に反対の立場で発言しているので、今一度まとめると、

<賛成>
1.CEO Akula氏(1998年、当時有数のMFIが資金調達難に苦しんでいるのを見て、政府資金、補助金、慈善寄付に依存しないMFIを目指してSKSを創業):貧困層への無担保少額融資サービスを持続的に拡大するには、資本市場からの資金調達が必要である。
 新世代のMFIとして、わが社は商業型アプローチによって、従前の方法に比較し、はるかに大きな資金をはるかに多くの貧困層に届けることができるようになった。その意味において、社会性と経済性の間にコンフリクトはないと考える。

2.Xavier Reille氏(世銀が支援するマイクロファイナンス関連のシンクタンクCGAPの専門家トップ):さらに多くの貧困層に資金を提供するために上場することは、不当な利益をむさぼることを抑止するに十分なガバナンスが機能しているのであれば、望ましいことだろう。2-3年以内に借り手の代表がボードメンバーになるかどうかを注視したい。

<反対>
1.Dr. Muhammad Yunus、グラミン銀行総裁:上場は、マイクロファイナンスの理念に反している。上場することにより、貧困層からお金を儲けられるエキサイティングな機会があるという、メッセージを送ることになる。私にとっては不愉快(repulsive)な話だ。MFとはお金のない人々がその自身のお金を自分たちの元に留めておくためのもので、それを金持ちの方へ向けさせるためのものではない。
 マイクロクレジットは、お金儲けの機会として示されてはならない。それは貧しい人々の生活にインパクトを与える機会なのである。


 今回の上場に先立って、創業者のAkula氏は所有する株式の一部を売却して$10Mを手にした。同氏は、その件を聞かれて記者への返答の際、同社職員へのストックオプションにも言及し、世界レベルの報酬を自社の社員にも、と強調した。だが、貧困層を対象とした事業を通じ、創業者や上場前に投資したPEが莫大な経済的リターンを享受することへの批判は強いようだ。
 富裕層投資家のお金が資本調達の形で貧困層向けの無担保融資へ流入し、そこで生み出されたリターンがどのように分配されるべきか(配当の問題)、またキャピタルゲインの源泉をどうとらえるか、という点に議論は集約できるだろう。
 ユヌス氏はまた、MFの利息を一般にもっと低くすべきだと主張しており、それへのAkula氏の反論(バングラデシュの地理的密集性からくる運営コストの違いと、インドでは許されていない、MFIが貸与した資金をそのまま預金させ、新たな貸し出しの原資とすることがバングラデシュでは可能なこと)もある(WSJ紙)。

<コメント>
 はたしてMFIの上場による資金調達は「正しい」のか、「正しくない」のか。さらにその調達資本へリターンを返すことは「正しい」のか「正しくない」のか。こうした問い自体が私にはむなしいものに思える。
 個々の社会的・経済的行為に込められた個々人の真意はそれぞれに異なるものだ。つまり、社会性実現のために利益創出モデルを活用しているのか、利益を追求するために社会性の高い事業を利用しているのか、個々の経営者の動機に占めるそれらの割合はどうかなど、外からは判断が困難である。そしてその動機の割合に応じて「正悪」が判断されるというのもうなづけない。利益の一端がリスクを取った株主へ還元されること自体を社会性追求の見地から忌避すべきか否かについても、見解は分かれるだろう。
 こうした主観的価値判断の是非を問うよりも、事象の全体構造がもたらす社会的・経済的効果をできるだけ客観的に評価する方向で考察すべきではないか。
 私の感覚は上記世銀系コンサルタントに近い。上場したとしても、資本市場での四半期ベースの業績向上圧力を配慮するがあまり、マイクロファイナンスの精神を踏み外して、不当なレベルの高利貸しや、見境のない安易な貸し出しとデフォルトの山に陥ることになれば、そもそも事業の健全な持続的成長は損なわれ、一挙に資本市場の信頼を失うだろう(コーポレートガバナンスの重要性)。
 確かに上場を機に創業以来の一部株主は巨額のリターンを手にすることになるが、それは元本保証のない大きな経済的リスクを取ったことへの経済的報いであり、正当なものである。また、社会性(マイクロファイナンス自体が現実に貧困解消に役立つか否かの議論は別)の高い事業の規模拡張に必要な資金を外部資本市場から調達することを選択するならば、その対価として相応のリターン(継続的利益創出によるキャピタルゲインと配当)を払う(もしくは目指す)こともまた必然・当然であろう。
 貧困を解消するという活動を、「倫理的道徳的に崇高な価値を希求するものであり、商業主義の“汚れ”からは決別しているべきだ」という価値観は一般的にいまだ根強いと思われる。人間には思想の自由があり、それを全く否定はしない。一方私の感覚では、企業家の利益追求と良心に従い、卑近な商業活動によって社会問題を解決していくことが目指されて「も」、違和感を感じない(これがすべての解決法と言っているのではない)。社会問題(換言すれば社会ニーズ)の多くは、ビジネスに関わる者が、企業の社会責任(藤井氏の定義)を果たすことを前提に、当然のように解決を視野に入れて活動して「も」何も珍しくなく、逆にその解決のための行動が特別で神聖不可侵なものであってはならないように思う。もちろん、企業がより積極的に貧困解消等、社会問題の解決を目指さなくても何らの法的・倫理的責めを負わないことは、キャロルの文献紹介で指摘した通り。「多元的アプローチの妥当性」と「利益」の意味・意義については過去のエントリー参照。

違法伐採と貧困: カメルーンの事例から

 「残念だが、この国では当たり前の風景。違法伐採は貧困にあえぐ人々にとって、ほとんど唯一の生きる手段だ」(カメルーン政府関係者の談話、引用元:信濃毎日新聞の7月28日朝刊)そのような状況下、村の男たちは違法伐採した木材を外資の製材会社に運ぶ。
 
 同紙同号では、世界各地の森林違法伐採の問題が取り上げられている(ウェブ上にはなし)。アマゾン流域、インドネシア、ロシア、コンゴ地域という、地球上の主要な材木生産国・地域(他にバルト三国地域、東アフリカなどがある)の事情が報告されている。

1.カメルーンの事例
 カメルーンの事例では、「伐採は唯一の生きる手段」と副題が付けられ、同国政府が1994年の商業伐採を制限した後も続く違法伐採の実態とその理由を報じている。郊外の村には欧州系と中国系の製材会社が進出しているが、これら外資系企業は大きな騒音で伐採する上にわずかな補償金しか支払わず、近隣の村は外資からの恩恵を受けられていないことに不満を募らせているという(同紙記事)。それら村々の住人の一部が違法伐採に手を染める。

2.インドネシアの事例
 この違法伐採と貧困のリンクは、インドネシアでも同様だ。同国は2008年のギネスブックで、世界で最も速いペースで森林が消失する国、とされた。パーム油の原料となるアブラヤシ、パルプ原料のアカシアが大小様々な規模で栽培されている。その栽培用地確保のための開墾で森林が失われるという。(開墾による森林消失) (以上、信濃毎日の記事をベースとした論評)

3.違法伐採の「違法性」とは
 そもそも伐採の「違法性」は何によって生じるのか。いくつかのパターンがある。まず、伐採そのものに関しては、1)環境保護や治水目的で伐採が禁じられた地域での無許可伐採、2)不当な(賄賂など)手段による伐採許可(ライセンス)の取得、3)伐採禁止種の伐採、4)伐採制限量を超えた伐採。また、伐採以降の加工と流通においては、5)違法な製品化と輸出(脱税)、6)税関における申告不正(脱税)など、である。違法材を輸出入しない、という二国間協定を迂回するため、その種の協定を結んでいない第三国にいったん輸出してから目的国に輸出しなおしたり、違法材を輸入してそれを合法材として輸出するといった木材ロンダリングも存在する。

4.違法伐採が引き起こす諸問題
 さて、違法伐採による木材輸出入は、様々な問題を引き起こしている。2007年WWFの報告書によれば、違法伐採が引き起こす問題とは:

1) 腐敗や悪慣行の助長(伐採許可を得るための賄賂や、違法伐採で得た利益の横流しなど)• encouragement of corruption and bad practice

2) 政府の税収機会損失、社会インフラと国民の福祉の損失(現地資本での林業が育成されず、違法材による利益は海外へ流出してしまう)• major loss of revenue for governments, with knock-on effects for social infrastructure and human well-being in the countries
concerned

3) 森林の存在をベースに成立している集落から、長期持続的収入源と安全が失われる。• loss of long-term income and security for forest-based communities

4)森林機能の低下により、動植物の生態系が失われる• degradation and clearing of forests and consequent loss of habitat for plant and animal species

5)天災の増加:土地浸食、堆積物による河床上昇、地滑り、洪水、森林火災• increased vulnerability to natural disasters such as erosion, riversilting, landslides, flooding and forest fires

6)質・量、両面から長期的材木供給が困難に• loss of long-term supplies of timber, threatening both quality and quantity

7) 合法的に伐採する事業者に不当な競争的圧力をかけ(∵違法伐採材は低価格販売可能)、責任感と順法精神ある経営者を違法行為に駆り立ててしまう。
• undercutting of and unfair competition with responsible, well managed forestry, potentially leading otherwise committed managers from legal practices to illegal ones.

これらに加え、森林の消失自体はCO2を発生させ、またCO2の保持能力が減退することを意味する。

5.先進諸国での取り組み
 EUでは、2003年からFLEGT(the EU Forest Law Enforcement Governance and Trade)によるアクションプランが実行に移された。2005年のG8以降、先進諸国でも違法伐採の問題は気候変動やMDGs達成との兼ね合いから政策課題として優先順位が高まってきており、日本でも2006年のグリーン購入法の中で、違法伐採材を政府調達の中では使用しない政策がとられるようになっている。民間での使用は義務付けられていないが、奨励されている。(Goho Wood キャンペーン)。COC(Chain of Custody、いわば原産地と合法性のトレーサビリティ)確保が違法材撲滅のカギと言われているが、それを網羅的に保証することは技術的に極めて困難とされている。

6.BOPにおけるビジネスの文脈
 この違法伐採問題は、現地の人々の所得を高めつつ、合法的(すなわち持続可能な林業および関連産業という形での)ビジネスモデルで解決することが可能ではないだろうか。林業とくれば、日本には大変に高度なノウハウが存在するはずだ。すでに森林のCO2保持力を排出権取引に活用する試みは始まっているが、社会性と経済性を営利の本業で両立させるという本フォーラムの趣旨からは、実業世界でのビジネスモデルを考案してみたい。

<参考文献>

2010年7月24日土曜日

アフリカ研究調査概況2: D. Light Design社 (ダルエスサラーム・タンザニア)

 最新モデルKiran ($12)。パッケージに印刷されている公称の性能は、日中8時間の充電で、明るさLowで8時間、明るさHighで4時間の点灯が可能。現地で購入した製品により、実用上どの程度使えるのか現在試用中である。同社の最安モデル。他に、より光量が大きく、携帯充電ジャック付属のものなど、4モデルある。携帯の充電に特化した製品も発売直前。同社ホームページ:
http://www.dlightdesign.com/home_global.php

 同社は、二人のスタンフォードMBAが非電化地域の実態を目の当たりにして起業を決意した、社会的ミッションを掲げる営利企業である。そのミッションとは、「非電化地域の人々に電化地域と同等のQOLを実現することであり、その第一歩として、すべてのケロシンランプ(燃料油のランタン)を有毒ガスを出さない、安全で、明るい光に置換すること」にある。
 具体的目標として、同社のソーラーランタンによる照明の下で暮らす人を2015年までに累計5000万人に、2020年までに1億人にすることである。
 当研究室によるタンザニアでのインタビューでは、現地におけるチャネル開拓の3ステージ戦略について詳しく話を伺った。(今秋にはケース教材として慶應ビジネススクールより発行し、新科目"Strategic Management with Social Impact"で使用予定)

下記:今回の研究調査とは無関係の外部公開記事↓

記事1:共同創業者・CEO Sam Goldmanのインタビュー(リンク先Social Innovation Conversationsに音声ファイルあり。聞き手はStanford Center for Social Innovation。内容は、彼のケロシンランタンの下での原体験から起業に至る経緯、同社の基本理念など。)

利益と社会・環境的インパクトの両立について。収益性とインパクトはリンクしている。インパクトのスケールをあげるには、より大きなファンドへのアクセスが可能になるモデルを追求するべきだ、というポジションは印象的。本サイトの視点に非常に近い。「シリコンバレー発のソーシャルベンチャーとして」という自覚。

"Q: How do you balance the tradeoff between profitability and impact?

A: Impact and profitability are linked. The harder thing to get hold of actually is profitability versus time. Even the giant companies when they start up new divisions or go into new markets are usually not profitable for a while. Clearly we have to be profitable and clearly we have to come up with models that do not require us to sacrifice profitability in the name of impact; otherwise we are not going to do our job. The whole notion of creating a for-profit, venture-funded organization rather than an NGO (non-governmental organization) or more social-sector group was that the scale of the problem is measured in billions. If we want to grow to that scale, we have to do it backed by massive amounts of capital that can fund the inventory, fund the growth, and fund the new offices. I do not really see it as too much of a tradeoff, to be honest. We can affect a lot of lives as an NGO, but if we want to affect a billion people’s lives, it has to be done with a different set of models.”


" We hope one day to be the first social enterprise ever to go public." (いつの日か、株式公開を果たす最初の社会企業になれることを望んでいるのです。)というフレーズが強く印象に残る。資本市場へも正対する社会企業の姿。

2010年7月23日金曜日

35ドルパソコンby インド人的資源開発省


<製造原価> 35ドル(1500ルピー。その後、大量生産によって原価10ドルを目指し、小学校から大学まで普及を図るとのこと。実際の開発は Indian Institute of Technology と Indian Institute of Scienceが行った。政府は売値の半額を補助することを考慮中。)

<仕様> 縦18cm、横23cm、1.5kg、タッチスクリーン式で、キーボードは外付け(価格に含まれないということだろう)、ネット閲覧可、無線通信対応、USBポート付き。RAM2GB。OSはLinux。当初台湾で生産予定だが、現在世界規模のパソコンメーカーと交渉中だという。

<コメント>
 私はIT業界の人間ではないが、この端末はクラウド環境でのクライアントとして設計されている、ということだろう。ネグロポンテ氏の100ドルパソコンを一挙に下回る原価。35ドルを価格ととらえると、「BOP」向けソーラーランタンの上級製品程度だ。適正技術の事例。このPCが普及すれば、「BOP」層はもはや「フラット化からこぼれおちた」地域ではなくなる。ソーラーパネルによる駆動も可能ということなので、どんどんと非電化の農村部へも広がっていく可能性が高い。教育、医療、公共サービスに加え、情報サービス、金融、Eコマース、エンターテインメントを始めとする新たな事業機会も広がるだろう。

(写真あり)

アフリカ研究調査概況1:パナソニック エナジー タンザニア


 同国最大の都市ダルエスサラームにある。6月最終週から始まった今回の調査で最初に訪問した企業。従業員数は正規110名、臨時50名の計160名。パナソニックは2010年になってナイジェリアに駐在員事務所を再開設したが、このタンザニア事業は設立が1967年であり、40年余りの歴史を持つ。68年から同社は電池製造を開始、72年にはラジオ製造も始めた。その後電気蓄音機(フォノグラフ。レコードプレーヤーとラジオが合体したもの)、扇風機、ラジカセと生産品目は拡大し、1975年からはラジカセの部品内製も開始する。しかし、1978年のタンザニア・ウガンダ戦争を機に同国の外貨が底をつき、同社の生産は電池とラジオのみに縮小される。その間、企業の国有化の波に飲み込まれることもなく、現在まで操業が続いている。
 現在の主力製品は単一(一本450タンザニアシリング。20-30円。主に家庭用大型ラジオ用。シェア35%)と単三のマンガン乾電池(一本250タンザニアシリング。主にポケットラジオとテレビリモコン用。シェア90%)である。
 単三電池の成功は、写真にもあるように、一本づつのばら売りを可能にした小分け包装にある。これまでは、4本まとめてシュリンクラップし、箱に入れて小売店のカウンターの下に置かれていた。これをばら売り包装にしたことで利点が二つあったという。
1)バラで買った後に包装が破れていると、その電池が新品かどうか見分けがつかなくなり、消費者が警戒して買わなくなる、という問題があった。これを解消。常に新品の保証ができるようになった。
2)これまではカウンターの下に隠されていた箱売りが、店の棚の前面に常時吊り下げられるようになり、視覚に入りやすくなった。
 今後この事業には、ソーラーランタン用二次電池の需要も発生してくると考えられ、これまでに営々と築いてきた販売チャネルを含め、対BOP市場への布石として活きる時が来ようとしているのではないか。

2010年7月16日金曜日

Social Impact Analysis of Poverty Alleviation Programmes and Projects

http://www.amazon.com/Analysis-Poverty-Alleviation-Programmes-Projects/dp/0714681512

社会的インパクトの測定指標

タンザニア、ナイジェリアでのフィールドサーベイ

当研究室では、6月最終週から7月第1週にかけて社)日本能率協会と共同でタンザニア、ナイジェリアに赴き、現地の生活環境、企業、医療施設の見学・インタビューを行ってきた。訪問(もしくはインタビューした)企業・施設は下記の通り(訪問順)。

<タンザニア・ダルエスサラーム>
1)Panasonic Energy Tanzania (乾電池製造・販売)
2)Tanzania Occupational Health Service (Panasonicの提携病院)
3)D. Light Design (ソーラーランタン製造販売)

<タンザニア・アルーシャ>
4)Vector Health International (防虫蚊帳製造販売。住友化学とタンザニア現地企業AtoZ Textileの折半出資によるJV)

<ナイジェリア・ラゴス>
5)Honda Motor Nigeria (オートバイのCKD製造販売)
6)West African Seasoning Co., Ltd. (味の素現地法人。調味料・香辛料の製造販売)
7)Vestagaard Frandsen (防虫蚊帳や浄水器Lifestrawの製造販売)

順次、概要を報告する。

その内容の一部は7月21日開催の下記のシンポジウム(JMA主催)でも触れる予定です。


2010年7月15日木曜日

バングラデシュの新教育体制、キリスト教区の学校も受け入れ

先のエントリーで、同国の国民皆教育(8年間)政策に触れたが、キリスト教学校もこれを基本的に受け入れる方向という。ただし、正式導入に先立って、非宗教型の教育についてもっと内容が詳らかでないことや、登録手続きの煩雑さなど、懸念も残るという。とはいえ、新制度は着実に前進しつつあるようだ。

ちなみにバングラデシュには国立・私立合わせて84,000の初等教育学校が、また18,500のセカンダリー教育学校が存在するとのこと。


ファストリのバングラデシュ生産拠点プロジェクト 近況

7月14日 Just-Style紙

2008年に発表されたバングラデシュにおける総額$80Mの投資による生産拠点設立は順調に進んでいるという。この生産事業は最終的に製布と縫製を行う。合弁事業者はファストリ(日本)、
Pacific Textiles Holdings Ltd、Crystal International、(以上香港)、Ananta Group (Bangladesh)である。

Pacific Textileによれば、すでに縫製工場を一棟借り受け、衣服の製造を開始、現地の経営慣習や人材育成の方法を学習中だという。さらに、製布・縫製工場の用地購入も済んでおり、現在工場の設計が進行中。衣料品の生産は2010年中、生地製造は2011年の早い時期とされている。


2010年7月14日水曜日

「グラミンユニクロ」 2010年10月に設立

7月14日 産経新聞

1.設立:2010年10月(予定) 資本金10万ドル(約885万円)(9月をめどに資本金5400万円でソーシャルビジネスを立ち上げる現地子会社を設立し、そこから投資する。)
2.資本構成:グラミン銀行1%($1000)、ファーストリテイリング99%($99,000)
3.事業内容:現地の貧困層向けの安価な衣料品を製造・販売する。女性用の下着や学校の制服などを製造、グラミン銀行のMFを利用する農村部の女性を販売員として活用する。売価は平均1ドルとのこと。
4.雇用規模:初年度250名、3年後に1500~2000名を目指すという。大半は販売にあたる農村部の女性という。


<コメント>
 ファストリといえば、企業価値増大へ向けたアグレッシブな成長志向が大変強い、上場企業のお手本のような存在だけに、「株主配当を一切行わない」というグラミン流「ソーシャルビジネス」を行うと聞いた際、率直な感想として多少の唐突感を禁じ得なかった。だが本件の投資規模から考えて、本業を活かした純粋な社会貢献活動(なおかつ副次的経済効果は大変大きい)ととらえれば、その意味をすんなりと理解できた。

 そもそもこのグラミンユニクロは、「株主に配当しない」ソーシャルビジネスという時点で、本フォーラムの対象から厳密には外れるが、今回の事象は1)低労賃を活用した世界的生産拠点としての事業(先に発表された$80M規模の香港企業との合弁)と、2)BOP2.0型の派生事業(本件。配当は行わない)を同じ国の同じ業界で同時進行させている点で、興味深い考察対象になる。

 報道によれば、この事業自体から得た収益は「雇用拡大」に再投資されるという(「ソーシャルビジネス」なので必然)。そもそも売値1ドルであれば、本体への直接的利益貢献はたとえあったとしても微々たるものであり、それが狙いであるはずがない。すでにいわゆる「チャイナプラスワン」として、バングラデシュを第二の世界市場向け生産拠点と定めたファストリにとって、この小規模社会貢献事業には以下のような役割もしくは波及効果があると思われる。

1)社会価値創出の肯定的企業イメージ(対資本市場・世界製品市場):
 数年後に雇用創出数が2000名の規模ともなれば、住友化学の合弁事業(タンザニア)による4000名に匹敵しうる。貧困層が「寒さをしのげる」(ユヌス氏)という製品そのものによる貢献と、事業プロセスを通じた雇用(所得)の創出は、BOPにおける本業を通じた問題解決の望ましい姿に近づく。もっとも、この事業自体は、利益をたとえ生んでも配当をしない「ソーシャルビジネス」であるがゆえに、本フォーラムで標榜する営利と社会性の追求という範疇には入らない。とはいえ、「本業を通じた貧困解消」がいかなる規模にせよ達成される点において、同社の企業イメージを向上させるだろう。

2)同国における企業市民としての資格(対バングラデシュ国内世論):
 本事業は、ファストリ全社の投資規模(342億7300万円、2009年度投資活動によるキャッシュフロー実績)や、バングラデシュに設立済みの縫製事業への投資額(7億6千万円)からすれば、極めて少額の資本金(885万円)である。賃金紛争が発生しがちな同国内で大規模生産拠点(本件とは別)を運営する上での、リスク軽減費用として理解できる。

3)低所得地域における地産地消モデルの実験・学習機会:
 BOP層市場の莫大な潜在市場規模と成長性を考えれば、超低コスト生産と販売チャネル構築の学習機会(および他国の低所得セグメントへの応用、たとえばインド農村部)

4)今後急成長が見込まれる同国農村市場への先行的ブランド浸透(および他のアジア市場への波及、たとえばインド市場)

 ちなみにグラミンダノンモデルを参考にすれば、農村部と首都ダッカで差別価格(農村では安く、首都では高めに)を実施し、早期に採算に乗せることも試行対象になるかもしれない。

 先のエントリーで、マイクロファイナンスを活用した貧困解消に関し、単にMFによって資金融通をつけるだけでなく、資金活用の対象となる「しごと」をセットで導入し「資本蓄積」を進めることが重要と書いた。そしてその方法論の一つとして「農村部への大量生産工場設置とそこから生まれる製品の販売チャネル構築をワンセットで行うことだ。この場合、工場設置という大規模投資は多国籍企業や地元企業が行い、企業側に不足している販売チャネルはMFによって小口仕入れをする販売員を募って育成する。雇用は工場勤務と販売員双方で生まれる。グラミンダノンはこれに近い。」と述べた。ユニクロの今回の事業もこのモデルに極めて近い。ダノンとの違いは、同国内でユニクロが大規模営利事業を他に営んでいることだ。

 総じて、この事業をファストリのバングラデシュにおける非営利の社会貢献事業(日本語で言うところの「CSR」)と考えれば、グラミン流「ソーシャルビジネス」の形式を選択することは、企業広報的観点からは、かえってこれ以上ない効果的な打ち手と思われる。

 なお、これまでに設立された(もしくは設立が決まった)グラミン銀行と外資多国籍企業の合弁事業の出資比率は、以下の通り。

1)グラミンフォン(Telenor 当初62%、上場後55.8%、グラミンテレコム 当初38%、上場後34.2%)
2)グラミンダノン(Danone 50%、グラミン銀行 50%)
3)グラミン ヴェオリア ウォーター (Veolia Water AMI 50%, グラミンヘルスケア50%)
4)グラミンユニクロ(ファーストリテイリング現地子会社 99%、グラミン銀行関連企業1%)

 本件においてグラミン銀行の出資比率が突出して低いことの意味については、今後の本事業の展開を学びながら別途考察する必要があるだろう。他のケースと比較して、両者の交渉力のバランスに何らかの特徴があったのかもしれない。