2010年4月10日土曜日

インドのMFI上場でまき起こる論争:「貧困から利益を得る」ことの是非

SKS Microfinanceがインドのマイクロファイナンス機関として初の上場を果たす。$250-350Mの調達が予定されている。出資者に名を連ねるのは、創業者Vikram Akula氏(6%)、Sequoia Capital India(24%弱)、Sandstone Capital Llc(12%)、Kismet Capital Advisors Llc (17%)、SKS Trust for the Benefit of Women Entrepreneurs(15%)である。SKSは1998年創立で、2005年に営利のノンバンク金融会社(for-profit non-banking financial company-NBFC)として登録された.

今回の上場は、バングラデシュ、メキシコ、南米などの主たるMFI、そしてMFIに投資しているPEsから大いに注目されている。昨今、MFIに積極出資しているのは、シンガポール政府系投資会社Temasek、香港の投資銀行のオルタナティブ投資部門であるCLSA Capital Partners、世銀グループの国際金融公社(International Financial Corp)、プライベートイクイティのSandstone Capital(インド半島の投資機会。在米国)、シリコンバレーベースの世界的VCのインド支社Sequoia Capital IndiaMFIを支援する世界的NGOであるUnitus、英国のPEであるMatrixなどである。

●肯定的論点

1.MF市場の急速な成長と、既存資金源(寄付や銀行融資)の枯渇から、MFIが資本市場へ向かうのは自然の成り行きである。「年成長率が75%という中で、適正な自己資本比率15%を保つには既存の資金源だけでは困難だ。」「従って、MFIsはPE、資本(株式)市場、その他の融資機関へと移行しなければならなかった。今回のIPOは祝福されるべきものだ。」(Vijay Mahajan氏, MFI業界のロビー団体であるMFI NetworkのPresident

2.今回のIPOは、MFIsの名声・評判を向上させる。「今回のIPOでMFIへの注目度は劇的に高まり、MFIの生態系全体に対する信頼も高まるだろう。」(Sequoia Capital Indiaのmanaging director、Sumir Chadha氏)

3.インドの財務相は、2010年初旬、NBFCsに銀行業免許を与えることも可能、と表明。同国におけるMFIの役割がますます重要になることを示唆した。


●否定的論点

1.他のMFIやNGOの中には、資本市場にアクセスしたり、プライベートイクイティからの出資を受け企業価値が押し上げられることを好ましく思っていないものもある。
2.「マイクロファイナンスの役割は貧困の解消にある。しかるに、このIPOから恩恵を受けるのは一体誰なのか?」「MF事業拡張や情報システム投資の資金を得るためにIPOするのは分かる。 だが、MFのユーザーがいまだ貧困を脱していない一方で、株主の間に億万長者を生じさせるのは果たして正しいことなのか」(インドとネパールでマイクロファイナンスを手掛ける英国のNPO、Shivia Microfinanceのexecutive director、Olivia Donnelly氏)
3.「PEの流入により、MFIの企業価値は簿価の5.9倍にまで膨れており、これは世界平均の3倍に達する。」「メキシコのCompartamosなど、すでに上場しているMFIsは既存銀行株をしのぐリターンを上げている。だが、それらMFIの企業価値は不安定に高く、現在の成長率や現在から将来に至る収益期待によっては正当化できないレベル」(要はバブル)と指摘されている。JPMorgan および世銀のConsultative Group to Assist the Poor (CGAP) による報告書

<コメント>
「BOP」において事業の経済性と社会性の両立をいかに図るかという論点からは、今回のIPOに関する議論を避けて通ることはできない。十分に考察する必要がある事象だ。

1 件のコメント:

  1. 岡田教授
    いつも貴重な情報ありがとうございます。

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