この定義は、World Bank GroupのInternational Finance Corporation(IFC、国際金融公社。先にMFIへの投資者としても紹介) とWorld Resource Institueが共同作成した「THE NEXT 4 BILLION:Market Size and Business Strategy at the Base of the Pyramid」(2007)の中で明らかにされている。基本的考え方、メソドロジーは、Branko Milanovic (2005) "Worlds Apart: Measuring International and Global Inequality"によっている。
1.「年収3,000ドル」
ベースとなる年収データは、世界110カ国(全世界には203カ国あり)の各国政府の手によって行われた「家計(世帯)収入・支出調査(national household survey)」である。(国レベルの合計値であるGDP、GNP、GNIではないことに注意)
Milanovic (2005) によれば、家計調査をベースとする利点は、各国内での収入分布も明らかにできることだ。GDPベースでは、一国内における収入分布は明らかにできない。なお、国によって調査対象が世帯年収の場合と世帯消費支出の場合があり、それらは分別されずに合計されていることがデータの限界として挙げられている(以後一括して世帯別年収と称する)。
この報告書における考え方は、ある世帯年収をその世帯人数で除したものが「3,000ドル」以下の場合、その世帯構成員は全員BOP層に分類する、というものだ。ここでいう世帯人数は、大人も子供も含んだその世帯の総人数である。例えば家族4人で世帯年収が1万2千ドルの家庭があった場合、4人の中に経済力のない子供が含まれていても、その4人は全員BOP3000ゾーン(一人当たり年収3000-2501ドル)に上限ぎりぎりで帰属する。家族4人で世帯年収2,000ドルならば、その4人は上限ぎりぎりでBOP500ゾーンに入る。Milanovic (2005) によれば、他にadult equivalentという手法もあり、世帯主を1.0人、二人目以降の大人を0.8人、子供を0.5人などと勘定する方法もあるが、その人数換算比率の妥当性が国ごとに異なるため、それは用いずに単純にper capita(頭数1つ=1.0人)ベースで算出した、と書かれている。また、BOP3000以下のゾーンでは直接税(所得税など)の大きさは無視できるほどに小さい、と想定されている。
通貨単位は"2002 international dollars"、すなわち、 「2002年時点の購買力平価(PPP)ベースでの米ドル換算値」である。PPPレートは、外国為替市場で売買される交換レートではなく、代表的な商品の組み合わせ(バスケット)をA国とB国でそれぞれ購入するのに必要な現地通貨量を等価として、貨幣交換価値を算出する。
例えば、2005年時点のバングラデシュの通貨価値は、為替市場レート(年間平均)だと64.33タカ=1ドルであり、PPPベースだと22.64タカ=1ドルである(IBRDと世銀が発表した2005 International Comparison Programの統計データ)。つまりPPPベースでみると、バングラデシュで22.64タカで買えるものは、米国では1ドルすることを意味する。ところが市場レートで1ドルを得るには両替商で64.33タカ払わねばならない(スプレッドは無視)。つまりバングラデシュのほうが実質的に同じものが3分の1近くの値段で売られていることになる。逆に米国人が市場レートで1ドルをタカに換え、米国からバングラデシュへ行けば、同じものを3倍近くたくさん購入できることになる。
ここで改めて年収3,000ドル(2002年PPPベース)の意味を確認する。これは、その個人が2002年の米国に行って3,000ドル分の買い物ができる収入額、ということだ。
ちなみに「2002年PPPベースの3,000ドルは2005年PPPでは3,260ドル」(同報告書)で、2005年のPPPベースの円ドルレートは129.55円=1ドル(同統計データ)だから、 BOP3000(2002年PPP)とは、2005年の日本で42万2,333円の買い物ができる1人当たり年収を意味する。4人家族なら168万9,322円。1日当たり1,157円となる。ここが、いわゆる中間層(ボリュームゾーン$3,000-20,000)とBOPを分ける便宜上の域値となる。ちなみに、BOP500は1日当たり193円、BOP1500は1日当たり579円。
2.「市場規模5兆ドル」
上記110カ国で、BOP3000以下に帰属する人口の1人当たり年収の総合計である。
よく登場する業界セグメントごとの市場規模比率は、調査項目が揃う36カ国の中で、世帯ごとに調査された消費支出項目(Food, Housing, Energy, Water, Health, ICT, Transportation, Others)をBOP3000以下の世帯で集計した結果である。この比率を110カ国ベースの総合計に乗じると、BOP全体での市場セグメントごとの「年間市場規模」となる。
つまり、市場規模もセグメント比率も、あくまでBOP層の家計における消費支出がベースとなった市場規模であり比率、ということになる。例えば政府による社会インフラ支出などは含まれていない。「BOP層世帯の購買力(消費支出)合計が5兆ドル(2002PPP)」というのが厳密な表現。これを為替市場レートで換算すれば、実際の市場規模は約3分の1程度となろう。
いつも丁寧に説明していただき、ありがとうございました。
返信削除質問1点聞かせていただきたいと思います。
C.K.プラハラードの「The fortune at the bottom of the Pyramid」に、一人当たり年間所得1500ドル以下の人をBOP層に帰属している一方、世銀グループのIFCと、WRIが共同作成した「The Next 4 Billion」に、BOP層の一人当たりの年収は3000ドルまで限られている。それなのに、BOP層の人口は両方とも40億と言う数字が出ているようだ。この間の差は、計算方法の違いだろうか?
よろしくお願い致します。