2010年6月9日水曜日

企業と社会的価値の関係(その1):「BOPビジネス」を取り巻くより大きな文脈としてのMDGs&Business Call to Action

企業が途上国の低所得層を対象に事業展開する以上、貧困状況の改善に何らかの役割を果たすことが、事業の持続的成功(経済的成功)のために必要なことは疑いない。だが、企業自身が声高に自社事業の社会性を前面に押し出して喧伝することには、程度の問題ではあるが、外部から見て何らかの偽善を感じる向きもあるだろう。

というのも、企業活動の最も重視されるべき本来の社会的役割(基盤となる役割)は、その経済的責任(人の集まりとしての社会に不足しているもの、すなわち市場ニーズに応える商品やサービスを製造・販売し、その過程で事業の継続・拡張を担保する利益、出資者の期待に応える水準の利益、そして雇用を生み出し、納税をすること)*であって、採算を度外視した無私の社会貢献活動ではないからだ。

とはいえ、環境回復や貧困問題解消の重要性が、これだけ深刻に地球規模で知覚されることはかつてないわけで、こうした環境的・社会的問題に企業が背を向けられる時代はとうに終わっている。

その文脈で細々と展開しているのが国連のUNDPがイニシャチブをとっているBusiness Call to Actionである。その趣旨は「国連MDGsの達成に向けたプロセスを加速するために民間企業セクターによるBOP市場(base of the pyramid markets)への投資を奨励」することにある。(The BCtA seeks to accelerate progress toward the achievement of these goals by encouraging private sector investment in base of the pyramid markets.) ここは「寄付」でなく「投資」という言葉を使っていることから、採算性を担保した事業活動が想定されていると解釈すべきだろう。

ちなみにこの宣言に2007年、2008年で署名している企業・団体は合計約60社にとどまっている。 日本企業では住友化学と三井物産だけだ。また、現段階ではこれら2社の日本企業は利益を追求しない姿勢でこの行動要請宣言に臨んでいる。しかし、この宣言に見られる企業の「投資活動」によるMDGs達成への役割期待は、明らかに昨今騒がれる「BOPビジネス」(貧困問題の解消を伴う収益事業)の背景であり、上位にある文脈だ。

つまり、1企業が個別企業レベルで、あたかも経済価値と社会価値の2正面戦略をとることに何らかの無理を感じざるを得ないとすれば、企業の営利活動が「より上位の文脈の、社会的問題解決への大きなスキーム」の一端を担っていると考えれば、企業による「BOP」事業の持つ「社会的価値・意味」を説明・理解しやすいのではないだろうか。

こうした「制度的規範」と、個別企業の持続的競争優位を統合する論理が、新たな企業戦略理論につながるかもしれない。

*Carroll AB. 1979. A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review 4(4): 497-505.
上記論文によれば、企業の社会的責任は以下の4つに分類される:
1.経済的責務economic responsibilities):社会のニーズに応える製品・サービスを作り出し、資本の確保と事業継続に必要な水準の利益を実現しながら供給・販売すること。その活動を通じた納税と雇用創出。企業にとって最もfandamentalな社会責任。
2.的責務legal responsibilities):社会の定めた法制度や規制の枠組みの中で経済活動を営むこと。例:労働関連法令、環境規制、知的所有権法令等の順守

3.倫理的責務ethical responsibilities):法的水準を超える倫理的要請 例:フェアトレード、労働衛生環境のさらなる整備、適正な給与水準、カウンセリング、食事提供等

4.裁量的責務discretionary responsibilities):個々の企業の裁量・自発的選択に委ねられ、参画しなくとも非倫理的とはみなされない。 例:さらなる雇用創出を目的とした製造現地化や販売網構築、社会的価値の高い製品サービスの選択、純粋な慈善活動

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