本ブログの関心を実務的関心と学術的関心とに分別すれば、後者の主要なものは「既存戦略理論が包括的ビジネスという現象をどの程度説明し得るのか。そしてより妥当な理論は何なのか。」というものである。
すなわち、本ブログの背景には、「営利企業が社会的価値の創出を意図する際に、それをどのように理論的に説明するか」という、企業理論(
theory of the firm)に関わる重要な研究上の問いが存在している。
今回の論文(リンク下記)の問題意識は以下の通りである。これまでの戦略研究において、「戦略的提携」といえばそれは複数の営利企業間のものであることが暗黙の前提であり、その下で理論構築、理論的説明がなされてきた。無論クロスセクターアライアンス(セクター横断的提携)に関する若干の文献は存在する(下記論文参照)のだが、分析単位(unit of analysis)が必ずしも個別営利企業(戦略理論のそれ)ではない。
岡田正大(2013)「開発途上国低所得市場(BOP層市場)への参入における戦略的提携の形成について」慶應経営論集30(1): 1-39. (2013年3月31日発行)
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こちら。 Abstract in English:
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この論文のリサーチクエッションは、包括的ビジネスでは常態化している営利組織-非営利組織間の「戦略的提携」が既存戦略理論によってどの程度説明可能であり、説明不能の部分があればそれは何であって、それを説明するためにはどのような理論的修正が必要かを明らかにするものである。網羅的理論サーベイと理論構築、および事例に基づくその検証を行っている。事例はタンザニアを二度訪問して取材したディーライトデザイン・タンザニア(営利企業)と英国のソーラーエイド(NPO)の間の提携協力行動である。
結論として、営利企業が非営利組織と提携・協力する際には、営利企業に「社会経済的収束能力(socio-economic convergence capacity)」(詳細説明は論文に譲る)がどの程度具備されているかが、パフォーマンスの良し悪しに対して重要な影響を与える、という示唆が得られた。