岡田研究室では、2012年8月の第1・2週にわたり、タンザニアとガーナにおいて第5次のフィールド調査を行った。今回のインタビュー調査対象は下記の企業・組織・人であった。各地でのビジネス実態と消費者の購買意思決定プロセス(特に企業とその製品の社会性の持つインパクト)を調査し、それらが先進国市場における製品開発やリバースイノベーションに、そして国際間分業にどう影響を与えるかを研究するためである。
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タンザニア
1)Tingatinga Arts Cooperative Society: Abdallah氏(同ソサエティー組合長)。
60年代末から72年に死去するまでの数年で独自の画風を確立して注目されたティンガティンガ氏とその弟子たちが絵画工房を立ち上げ、作品製作とその販売流通を行っている。数10名のアーティスト(作品の売上が収入)と100名前後の弟子(授業料を支払う)により構成される。アーティストの大半は初等教育を満足に受けていない。現地に根差したガーナ発アートビジネスとして拡大を目指すが、流通チャネルの限界と経営人材の欠如がボトルネックとなっている。他にアンケート調査も実施。
2)Solar Aid Tanzania (NGO, 本拠地イギリス): Mr. Tom Peilow, Finance Manager 他。
すでに
第2次調査でインタビューしたD. Light Design社を再訪するつもりであったが、同社は既にタンザニアから撤退し、その商圏を譲り受け、ディーライト製ソーラーランタンを新たなマーケティング手法で拡販しようとしているのがSolar Aidである。Solar Aidは、ディーライトが新たなディーラー網構築に腐心し、それを断念した市場で、全く異なるマーケティング手法(学校経由)を生み出し、急速に成長中である。今後ソーシャル・エンタープライズ化を目指すという。本調査内容はディーライトデザイン・タンザニア(慶應ビジネススクールケース教材)の続編として教材化する予定である。今回の調査では、BOPにおける販売チャネル構築でいかに即興的な創造性が重要かを学ばされた。他にアンケート調査も実施。
3)郊外住宅密集地の一般家庭:
「企業(ブランドイメージおよび製品)の社会性が購買意思決定にどのように影響するか」に関するアンケート調査を実施。現地高校生2名と婦人の個人事業主(雑貨店経営)に対し。2人の高校生の知識や職業意識の高さに研究チーム一同脱帽。優秀だった。このコミュニティで一番困っていることは?との問いには、「道路が舗装されていないので、物資の輸送コストがかかりすぎる」(婦人)と、「水道の未整備」(全員)を指摘。1km先には水道管が来ているが、そこから先が未整備だと言う。水の販売業者(中国資本)がくまなくコミュニティをカバーしていた。
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ガーナ
3)Winglow Clothes and Textiles Limited: Mrs.Awurabena Okrah, CEO (Executive member of Association of Ghana Industries)
ガーナ企業。同社はCEOのOkrah氏が創業。生地に刺繍を施す布地の自社生産に強みがあり、より高級な婦人服・紳士服が主力商品である。ガーナ市場と輸出市場双方に注力。ガーナ人による独立企業として、いわば現地発個人事業成功のロールモデルとなるべき会社である。特に同社CEOのMrs. Okrahは、思慮深くかつ起業家精神あふれる経営者であった。現在新規事業立ち上げ中。元教員。
4)Takoradi Technical Insutitute(TTI)内のFabLab Ghana:TTI校長およびFabLab所長。
MITの
Center for Bits and Atomsが主催する「ネットデータの物質化」に着目したFab Labが、ガーナにも存在する。ファブラブは3Dレーザーカッターなど、デジタルデータを物質化する機器を標準装備する工房。本ラブは工業高校内にあることもあって教育目的が主だが、周囲の企業にも技術知識を伝播する役割を担っていた。岡田研究室では、ファブラブがいかに地域の起業家を輩出・育成することに役立つのかが研究上の関心であった。同ファブラブに刺激を受けて、新たな事業投資を行った地域企業があると言うので、下記企業をさらに調査。
5)Audiocraft: John Lemaire氏, CEO
ガーナ企業。同社は、Lemaire氏がナイジェリアで教員をしながら商機に目覚め、ナイジェリア・ガーナ間の商社を立ち上げたことが発端。その後専業となり、ガーナには豊富な木材と労働力があるにもかかわらず、音楽用スピーカーをすべてナイジェリアから輸入している実態に疑問を感じるように。とうとう国内木材にこだわったスピーカーボックス製造販売事業を設立。個人起業家の成功モデルである。現在はスピーカーユニットは外部調達しているが、現在内製を目指して部材の調達を思案中である。ナイジェリアの音楽機器市場が主要ターゲットとなる。日本企業との連携を模索。
6)Plan Ghana (NGO): 在Winneba、Central Region長。
子供の福祉増進を主眼に活動する国際NGOのガーナ支部に4つある地区(region)の一つCentral。味の素㈱は、ガーナ大学と共同開発している乳幼児向け栄養強化食品(現地の流動食であるココに加えるパウダー)の効果測定を、プランガーナに依頼して大規模に行っている。ところで、今回はその農村部での栄養学調査を見学する予定だったが、調査前々日に、ガーナ入国前に現職で死去したミルズ大統領の国葬(=国民の休日となり全員に喪に服すよう通達が出る)がその日に挙行されると決定し、現場への来訪はすべてキャンセルとなった。こういうこともあるんですね。全土が赤と黒の喪章であふれ、ここかしこで派手な音楽が流れた。賑やかに大統領を送るさまを体験。
7)味の素㈱&ガーナ大学:取出恭彦氏、北村聡氏、古田千恵氏。
農村部での栄養学的治験の現場を国葬で見学できず、その時間でガーナ大学へ。栄養食品学部(Nutrition & Food Dept.)の一角にある味の素のオフィスを訪ね、ガーナ大の教授も出席の上、プロジェクトの進行状況の説明を受ける。現在は現地企業との提携による製造も始まり、現在のサンプル出荷による治験を経て、本格的な販売を開始する予定。販売においてもNGOとの連携で実証実験を進めている。
8)ガーナの首都アクラ郊外の低所得層コミュニティ
調査最終日には、ガイドと同行しながら空港近くの低所得層コミュニティへ。車座になり、生活の様子や生活上のニーズ、日々の生業(自分のミシンでの縫製業から日雇いまで)についてなど、様々な角度でインタビューを行う。企業の社会性と購買意思決定についてのアンケート調査も行った。人々は最初警戒していたが、我々の現地ガイドがまず単身乗り込み、コミュニティのリーダーにOKを採ると、あとは大変協力的で、日常あまり社会から顧みられないことを不満に思っていたようで、我々の訪問を喜んでくれた。生活実態に触れる貴重な機会。
後日写真をアップする予定。