元花王会長の常盤さんのエッセーである。このエッセーをそのまま読むと、これはBOPとMOPを分断された市場ととらえ、MOP予備軍としてのBOPへも同時攻略が必要だという考え方が欠落しているようにも受け取れる。一見すると、日本企業のかつての成功モデルへの回帰を肯定しているように読める。
ところが、読み進むと、日本企業への認識がきわめて現実的で、なかば自虐的とすら言え、むしろ逆説的に日本企業の戦略不全に対する痛烈な批判になっているとも解釈できた。不思議なエッセーだ。
以下、同記事の要点。
日本企業の強みは歴史的に「高性能・高品質なのにリーズナブルな価格」という点にあり、これはBOPで要求される低品質低価格には整合しない。むやみにBOPを攻めては果てしない価格・コスト競争に巻き込まれて疲弊するだけである。
韓国中国企業は意思決定スピードや経営資源の組み換えが早く、変化の早い新興国市場への適応能力が高い。また、市場ニーズを把握するための「市場感性」にも長けている。一方、日本企業は「とにかくスピードが遅」く、「現地への権限委譲が不十分なためか、本社で時間をかけて議論することになったり、的外れな決定が下されたりしがち」なため、「結果として、韓国勢などに先を越されてしま」う。 (筆者注:これではMOPでも全く勝てないと思われるが。)
その結果、「日本企業は確かに技術では優れていても、この市場感性とスピード感では韓国などに見劣りします。」「残念ながら、技術で勝っていても、市場で、ビジネスで負けてしまう」。
よって、日本企業はBOPに攻め入るべきではなく、新興国中間層および先進国市場に的を絞り、「日本らしさ」を追求すべきである。
以上が氏の主張。