2009年5月29日金曜日

『グラミンフォンという奇跡』

「つながり」から始まるグローバル経済の大転換

著者はジャーナリストという事もあり、内容はとてもわくわくしながら楽しく読むことが出来る。しかし単にある事業の成功物語という楽しみ方の他に、貧困をなくすために営利企業が果たす役割は何か?またBOP(Base of the economic pyramid)と呼ばれる市場で営利企業が事業を成功させる為には何が成功要因となるのか?という疑問に大きな示唆を与えてくれる本である。

グラミンフォンという名前から、グラミングループが主体となっている携帯電話事業者の印象を受けるが、実際にはイクバル・カディーア氏というバングラデシュの起業家がグラミン銀行や北欧の携帯電話会社(テレノール)、日本の商社(丸紅)等を資本家として巻き込み実現させた電話会社である。
携帯電話事業には大きな2つのハードルがある。まずそもそもライセンスを獲得し、ネットワークのインフラを構築し、携帯電話事業そのものを始める事。次に携帯電話をその地域に暮らす人達にたくさん利用してもらう事、である。

最初のハードルはイクバル・カディーア氏が奔走して北欧の携帯電話会社(技術)や資本家(資金)を集め、バングラデシュ全国に携帯電話網を広げる計画を立て、政府から事業ライセンスを獲得し、克服した。
次のハードルは、グラミン銀行のマイクロクレジットと組み合わせてテレフォンレディーと呼ばれる地方の女性起業家を育成し、電話の利用者を広げていった。途中国有の固定通信事業者との接続回線を確保出来ないという危機もあったが、携帯電話間しか通話出来ない、しかし価格が安いというサービスを考案する。当時固定電話があまり普及していなかったバングラデシュでは、固定電話と繋がる事よりも安い事が支持され、サービス利用者を増やしていった。日本や欧米のような、電話がある、繋がる事が当たり前の国では想像も出来ない事業のやり方である。電話の利用が拡大するにつれ、テレフォンレディーの収入が増え、電話を利用する人々の生産性も上がり地域の経済が改善されていく。

なおこの本ではグラミンフォン以外の、インドのビレッジフォンやアンテナ屋の他、アフリカ、フィリピン等の事例も紹介されている。
ある事業の成功物語として楽しみたい人の他、特に発展途上国の貧困解消や、その為に営利企業やインフラが果たす役割、その実現方法について知りたい人には非常に参考になる本であろう。

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