2009年11月25日水曜日

米国政府がバングラデシュを「人権警戒リスト」から除外

11月24日、米国がバングラデシュを人権警戒リスト(human right watch list)から除外したことが明らかになった。human rights, minority communities, and women's safety and empowermentなどについて、満足すべき水準という判断がなされたのだという。

<コメント>
現実には様々な問題があると思われるのだが、各国間を相対的に見て、警戒すべき対象からは除外できる水準に達したということなのだろう。

2009年11月24日火曜日

インパクト・インベスティング

インパクト・インベスティング(impact investing)。日本ではまだあまりなじみのない呼称だが、本フォーラムの主旨を体現する概念である。

2009年1月発表のモニターグループによるレポート"Investing for Social & Environmental Impact: A Design for Catalyzing An Emerging Industry"によれば、「インパクト・インべスティング」とは、「社会的・環境的リターンとともに経済的リターンも生み出す投資」のことであり、「地球規模の問題を解決する方策として、慈善事業や政府の介在を補完する効果的な力となる潜在性を持って」おり、ひとつの投資業態として新たな業界を形成しつつあるとしている。

■インパクト・インベスティングにコミットする組織団体:

Net Impact (founded in 2005)
Its mission is "to inspire, educate, and equip individuals to use the power of business to create a more socially and environmentally sustainable world."

Global Impact Investing Network (founded in 2008. ロックフェラー財団が支援する。この組織を立ち上げるミーティングが2007年にロックフェラー財団主催で開かれ、そこでインパクト・インベスティングという概念・呼称が生まれた。)
"The GIIN works to increase dramatically the level and effectiveness of capital that is supporting market-based solutions to social and environmental problems. Our goal is to help foster a coherent impact investing industry that channels investment capital efficiently to accelerate the development of solutions to pressing social and environmental problems."

■事業の社会的・環境的インパクトを評価するスキーム:

Net Impact 2009 その1: マイクロファイナンスの現状と未来

next billion 11月17日付エントリーから。

「マイクロファイナンスを超えて-開発への新たなナレッジとモデル"Beyond Microfinance: New Knowledge and Models for Development"」と題するパネル討論で、商業化(commercialization)が急速に進み、拡大を続けるマイクロファイナンス機関(MFI)に関し、すでに成長は過度なのかいまだ不十分なのか、という視点から4者が意見を交えた(以下、要約)。

1)David Maxson, Accion's Frontier Investments Group (マイクロファイナンス事業の新たなモデルへ投資する投資ファンド会社)
「MFは、1.0から2.0へ移行する産みの苦しみを味わっている。MFIへの投資事業領域では、単に流動性(資金)を提供するだけのモデルを超える、新たな事業スキームが続々と生まれてきている。」

2)Gil Crawford, CEO of MicroVest Capital Management (米国で最も古いプライベートセクターのMF投資会社)
「対MF投資の資金量増加とMFI商業化の傾向は急激であり、行き過ぎの感がある。昨今のMFの焦げ付き表面化は氷山の一角に過ぎず、熱狂に浮かされた資金流入による安易な貸付が行われている。MFIの破たんは近い将来起こり得る。また、MFIの収益事業化(商業化)は、不十分な企業統治と癒着を生みだすだろう。」「コンシューマーグッズ(一般消費財)の販売や、消費者や中小企業向けローンにマイクロファイナンスを使うのは危険だ。それらは本来のMFの得意領域ではない。」

3)Alex Counts, President & CEO of the Grameen Foundation USA
「そんなことはない。あまり心配し過ぎる必要はない。革新と失敗が繰り返されることは自然なことであり、MFには多くの自律的な軌道修正の力が働いている。昨今話題になる複数のMFIから貸し付けを受ける問題はうわさの域を出ない。とはいえ、そうした事例が報告されたインドのある州では、89%のMF利用者は単独のMFIを利用、残り11%の大半は二つのMFIから貸し付けを受けていたというのも事実。MFが成長し商業化が進むにつれ、個々のMFIは自らの目的が貧困の解消(poverty alleviation)にあるのか、利益の創出(profit generation)にあるのかを明確に宣言しなければならない。」「各MFIが取り組むとよいのは、非財務的な商品やサービスを提供しようとする組織を併設し、それとMFとの相乗効果・連携を積極的に引き出すことだ。」

4)Henry Gonzalez, Vice President at Morgan Stanley’s Emerging Markets Debt Group and former founding member of its Microfinance Institutions Group (毎年2500から5000憶円といわれるMFIからの資金需要を受けとめるため、MFIへの投資を証券化)
「おおむね現状を肯定的に受け止めている。MFには現在二つのトレンドがある。一つは営利事業としてMFを営むMFIの数が増加していること、二つ目は、健康と教育が経済開発に強く結び付いていることを理解する専門領域特化型投資ファンドが増えている、ということだ。先のパネラーが指摘する通り、各MFIが自らの目的を明らかにすることと、より確固たるガバナンスの必要性には大いに同意する。」「まずは各MFIが提供するサービスの種類を多岐に広げることが先決。」

MFの世界では、新たな投資家やMFへの投資モデルおよびMF事業モデルが続々と生じる一方で、それらの活動が厳正な評価の目にさらされるという局面がしばらく続きそうである。


Net Impact 2009: a conference for Sustainable Global Enterprise

11月13、14日、コーネル大学でNet Impact 2009というコンファレンスが開催された。2600名の社会起業家、その予備軍、社会変革を目指す企業人、公的セクター、学術関係者が参加した。キーノートスピーチはGEのイメルトCEO.

以下、数度のエントリーに分けて、next billionで報告されたBOPに関連するイシューについて紹介する。

BBCがバングラデシュで携帯用英語レッスンを開始

BBBBCは同国の6大携帯ネットワークを巻き込み、この英語講座に対する特別割引(通常通話料の最大75%引き)を開始、5000万携帯ユーザーを対象に配信を開始した。講座は250の音声とSMSベースのレッスンからなる。1レッスン3分間で料金は3タカ(約5円)。既存の保有コンテンツの有効活用を狙う。

バングラデシュ代表、WTOで関税・数量規制の免除を要請へ

11月30日から開かれるWTO総会で、バングラデシュ代表は以下の項目を要求する予定。

同国を今回の世界恐慌により特に影響を受けた国(DAC:disproportionately affected country)と認定し、
1)先進国への輸出が無関税・数量規制なしで行える便宜
2)食品輸出への無関税措置

現在DACに認定されているパキスタンとスリランカに対しては、衣料完成品に対する関税を5年以内に5%に引き下げることが認められているが、least developed countries (LDCs) であるバングラデシュへの関税引き下げは、5年でなく、10年以内、という取扱いになっている。

polluter vs victim countries

この記事のように、バングラデシュ知識層の主張は、現在の地球温暖化や海面上昇は先進諸国の経済活動によって引き起こされたものであるから、その分、温暖化の犠牲になっている途上国・貧困国への経済的援助を強化すべき、というもの。国連のコペンハーゲン環境サミットが近づくにつれ、そうした基調で今後も先進国への要望を強めていくべきだ、という内容。

2009年11月19日木曜日

KDDI、バングラデシュのISP最大手に8億円出資へ

 KDDIがバングラデシュのISP最大手bracNetに出資、株式の50%を取得する事が発表された。bracNetの第三者割当増資に応じ、2010年1月に手続きを完了する。
 KDDIはこの出資を機に、bracNetの主要株主であるデフタ・パートナーズと開発途上国の新規事業で協業する事も発表している。

http://jp.ibtimes.com/article/biznews/091113/44294.html

詳細な続報
WIMAXベースの基地局を増強する戦略で他のアジア・アフリカ諸国への足掛かりとする戦略など。
KDDI出資後の持ち分比率は、bracNetの株主構成はKDDIが50%、gNet DEFTAが29.9997%、BRACは19.9998%。KDDIはbracNetに4名を取締役として派遣。

2009年11月12日木曜日

南アジアの栄養不良児童(国連調べ)

今週水曜に発表された報告書によると、アジアで5歳以下の子供の栄養不良率が最も高い5カ国は、アフガニスタン、ネパール、インド、バングラデシュ、パキスタンで、各国とも5歳以下の子供の40%以上が栄養不良である。十分な食料が取れていない子供の数は五カ国合計で8千3百万人にのぼる。この五カ国以外の各国で十分に食料をとれていない子供の数は7千2百万である。(つまり、全世界の食料不足の子供の約54%がこの五カ国に集中していることになる)

UNICEFの地域ディレクターはこの状況を鑑みて「南アジアのパラドックスは、経済成長率が順調に高まっている一方で、栄養不良の度合いは受容限度を超えて高く、かつそれがなかなか低くなっていかないことだ。」と語った。

南アジア諸国では、いまなお子供の年代での結婚が慣習として持続しており、小さな身体での出産を容易にするため妊娠後も食料をあまりとらずに母体を痩せたままにする習慣がある。栄養不足の母親からは低体重の新生児が生まれ、母乳の十分な提供もできないまま乳幼児の死亡率が高まってしまう、という。

同UNICEFディレクターの発言「栄養に対する戦略的投資が行なわず、単に経済成長をしているだけでは、持続可能な変化は成し遂げられないだろう。」



<コメント>
 BOPにおける企業活動が、本フォーラムでのBOP企業活動分類で言うところの第1・2・3・4世代にとどまっている限り、こうした経済発展と社会問題未解消(もしくは解消度が経済成長に比べて遅滞)の並存状況が生じてしまう。やはり、BOPでの企業活動には、経済合理性からも社会性からも第5世代型が望ましいということになる。

2009年11月11日水曜日

FASIDセミナー 「日本の経済協力への一視点 バングラデシュを事例として」

財団法人国際開発高等教育機構(FASID) Brown Bag Lunch Seminar 「日本の経済協力への一視点 バングラデシュを事例として」
講師: 井上正幸氏 財団法人日本国際教育支援協会理事長・前駐バングラデシュ日本国大使
日時: 2009年11月11日(水) 12:30~14:00
(セミナー紹介のURL http://www.fasid.or.jp/chosa/forum/bbl/annai_195th.html)

以下、掲題のセミナーへの参加報告。


 本フォーラムでは、今年10月21日のエントリーにあるとおり、多国籍企業の経営資源の活用を通じ、BOP市場に根差した事業活動を拡張させ、利益と社会問題の解決を両立するにはどのような条件を満たすことが必要かを明らかにしようとしている。従って研究の対象は多国籍企業に焦点を当てるが、多国籍企業はその活動する国での政治、経済、文化等様々な要素の制約や影響を受ける為、それらを無視出来ない。井上氏の話では、我々も今年6月に訪れたバングラデシュについて多面的に説明された。私の印象に残った点について、以下要約する。

  • 現在経済成長率は年約6%。産業は農業従事者が多いが、稼ぎ頭として縫製業、陶器、皮革製品、小規模船造船、ソフト産業等。
  • また500万~600万人のバングラデシュ国民が外国に出稼ぎに出ており、その多くは湾岸諸国で働いており、また出稼ぎに出た人々の2世, 3世も誕生し海外への人脈も出来つつある。従ってバングラデシュでのビジネスを考える際、国内だけでなく海外ネットワークも考慮するべき。
  • 経済協力では、持続可能性が重要、さらに単独の事業や地域の協力(「点」)に終わらせず、「点」から「線」、さらに「線」から「面」への広がりが必要。
  • 援助では相手国政府のオーナーシップを重視するが、効率的な援助につながるよう資金提供の立場からコンサルテーションも行うべき。
  • 民間企業の活動、特に教育訓練能力と雇用創出に期待している。雇用の創出は現状の人口増加(特に若者の増加)を考慮すると重要な事だと考える。

(コメント)
 我々フォーラムメンバー間のこれまでの議論でも、雇用の創出(直接雇用/販売チャネルへの現地起業家の参画)と教育訓練は、営利企業が利益と社会問題の解決を両立する為の必要条件として挙げられている。
(個人的には、営利企業による被雇用者の教育や現在日本が留学生を受け入れている高等教育だけでなく、長期的に広い影響を与えるだろう初等教育を普及させる事が産業の発展、雇用機会の創出や獲得、さらに貧困の改善につながる根本的な対処の1つだと考えるので、この部分での貢献に期待したい。)
 雇用の創出や教育訓練は企業活動、国際機関、NPO、NGOによる活動、現地政府や先進国政府関連諸機関の活動に共通の課題と言える。企業が戦略上パートナーと組む場合にはこのような共通の課題を多く(強く)持つ事で利害関係がより一致し高いパフォーマンスにつながると考えられる。従って、共通課題、目的が一致しない課題それぞれを整理する事も今後の調査項目として考慮しておきたい。

2009年11月7日土曜日

バングラデシュ外相がオランダの商工会議所に投資を要請

11月5日、Moni外相は在バングラデシュオランダ商工会議所の代表者とダッカで会談し、次のような分野で投資を促した。

1.再生可能エネルギー、2.発電、3.原油・ガス・鉱物の採掘、4.情報技術、5.観光、6.通信、7.農産業、8.製薬、9.皮革および皮革製品、10.繊維、11.電気製品・電子部品

経済力増強に向けて、同国政府がこうした分野を有望視・重視していることがわかる。


洪水に強い稲の3品種が正式に導入発表(バングラデシュ)

Bangladesh Rice Research Institute (BRRI)は、1995年にUC Davisで特定された洪水に強い遺伝子(Sub1A)を活用し、品種改良に成功した。このプロジェクトはThe Bill and Melinda Gates Foundationによってサポートされている。これにより、毎年洪水によって失われる百万トンの収穫が救われることになる。

「Sub1」と呼ばれるこれらの品種は、完全に水没しても2週間耐えることができ、水が引いた後も順調な生育を見せる。

BRRIは2009年9月に3品種、Swarna-Sub1, BR-11-Sub1, and BR-11-Recombinant-Sub1をバングラデシュ政府の Seed Certification Agency に申請済みで、SCAによるフィールド検証が終了次第、正式にリリースされる。

フィリピンではすでに今年7月、同様の耐洪水性の品種が発表されている。






10月21日のエントリー修正

BOPへの多元的アプローチの存在と本フォーラムにおける検討対象

1)本フォーラムでの議論の対象

 昨今の「BOPビジネス」に対する関心の高まりを受けて、日本においても複数の論者によって様々な立場から「BOPビジネス」の一義的解釈が試みられたり、一定の立場から懸念や限界が指摘されたりしている。だが、異なる論者が各々異なる定義・含意で「BOPビジネス」という言葉を用いると、これは同床異夢で議論のすれ違いばかりが際立ち、実のある議論は望めない。

 たとえば、本フォーラムでは「BOPにおける企業活動」の成功には、1)利益の継続実現を追求すること、2)活動プロセスで社会責任を全うすること、3)手段もしくは目的として貧困削減に貢献していること、これら3つの要件を満たしていなければBOPにおける事業活動が「成功している」とはいえない、と考えるが、①単に担い手が企業であり地理的場所がBOPである活動、②上記3つの要件をすべて高い水準で満たしているBOPでの事業活動、③上記の要件をそもそも満たすつもりのないBOPでの事業活動、などをすべて渾然一体としてとらえ、一言で「BOPビジネス」と称して議論することは無意味だろう。重要な次元で異なっている複数の概念を混同したまま、「BOPビジネスとは、、、」という符牒化・一般化が試みられると、これは読む側に混乱を招くだけだ。よって本フォーラムでは今後「BOPビジネス」という言葉は原則として用いない。


以下は、元のエントリーへ。