1.地理的市場の選定と当該域内におけるBOPの特定。
BOPの特定はPPPベースの一人当たり収入が3000ドル以下であるかどうか。次に当該BOP層の総購買力(つまりほぼ市場規模)とその成長性の推定(BOP人口×単位期間あたり可処分所得per capita。こちらはPPPベースでなくてよい。以下同じ)。また非公式経済(自給自足)の内容把握と貨幣換算の規模も推定しておく。ここで、B2C事業も想定して、当該BOP層の1世帯あたりの平均可処分所得(PPPでなく名目ベースでよい)と消費内訳(光熱費、通信費、食費、医療費、交通費等、現地の特性に即した分類で)を算出・調査しておくことが重要(→製品・サービスの価格決定時の重要指標)。BOP2.0も視野に、現地での労働賃金水準も確認。基本的マクロ経済指標の変動率の推定、P・E・S・T分析は与件として当然行なっておく。
2.重点セクターの選定
セクター間優先順位付けの基準は、どの主体が市場調査をするかによって異なるだろう。企業が主語であれば、自社の経営資源の賦存状況でセクター選定は大きく左右される。セクターが選定されたら、当該BOP市場における当該セクター市場規模(年間売上高ベース)とその成長性の推定(規模推定の根拠には、BOP人口の単位期間あたり消費内訳データが使える。)を行う。
3.現状調査
当該セクターにおける製品・サービスの現状調査とunmet needsの把握。BOP顧客に対する市場ニーズ調査、現地NGOに対する社会性を帯びた市場ニーズの調査。販路としての活用可能性の確認。既存進出企業(現地企業含む)の製品・サービス調査(機能、品質、価格、売上高、コスト構造、販路、総じてビジネスモデル)。十分な期間の現地調査が必要。エンドユーザーニーズの把握とともに、その解消にいくらまでならお金を出すつもりがあるか、実際出せるのか、も確認調査する。
4.ビジネスモデルの策定
新製品・サービスをベースにビジネスモデル(ファイナンシャルモデル、オペレーションモデル、戦略モデル)を組成する。 特に、ファイナンシャルモデルの構築には必要に応じてMFIsを、オペレーションモデルの構築には、必要に応じてチャネルとしての現地NGOsを組み込んでおく。同時にマーケティングミックス(4Ps)の構築。十分な原価推定と採算性分析を行う。推定はその後間違いなく狂うが、修正対象となるベースモデルを作る必要がある。
この段階で、同時にBOP2.0の可能性(現地顧客層の生産者・販売者としての参画可能性)を追求する。もしも2.0がNGであれば、BOP1.0にとどまるため、「貧困市場からの搾取」という非難を回避するだけの社会性が製品・サービスそのものにあるか否かを確認。なければ廃案。
5.当該ビジネスモデル(及びそこで販売される製品・サービス含む)に対する4As (Awareness, Availability, Affordability, Acceptability)のチェック。Jamie Anderson/Costas Markidesが示した4Asの考え方(Strategic Innovation at the Base of the Pyramid, MIT Sloan Management Review)。
6.当該提案ビジネスモデルの社会的パフォーマンス(貧困の削減度やHDIを応用して推定)・経済的パフォーマンス(NPVベース)の推定・評価。さらに、Ted London (2009) Making Better Investments at the Base of the Pyramidのモデルをベースに、当該事業が売り手、買い手、地域コミュニティーに対し、経済・人的能力開発・社会的関係性の3側面で各々いかなる影響を与えるか、効果アセスメントを行う。
7.複数提案間での優先順位づけ(後述。社会的価値・経済的価値フロンティアにおける位置づけと意思決定主体の属性とのマッチング)
最低限、上記のようなステップと項目で進んでいく必要があるように思われる。もちろん、こうした推定に基づく事業モデル構築は、不確実性ゆえにほぼ間違いなく、進行に従って現実と乖離していく。しかしながら、事業開始段階における初期資本投資と経営資源配分を可能な限り合理的に決定するためには、こうした事前意図的計画が必須となる。それに加えて、不確実性に柔軟に対処する「創発戦略」が必要になることは、戦略理論群がかねてから複合的に示唆するとおりである。この検討ステップは、今後継続的に精緻化を試みていこう。
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