要旨
より良い製品や事業を創造することにより、企業は政府や宗教が取り組むよりもより良い世界を作る事ができる、という考え方が本文献のテーマ。
大手多国籍企業は一部の先進国を除く国の経済規模よりも大きく、その総資産や貿易額は世界に大きな影響を与えるほどの規模であるという事実に基づき、論旨が展開されている。
- 世界の経済主体の規模を比較すると、上位100社に含まれる51の組織は企業であり、国家ではない。
- 世界の総資産の25%は、IBM, デュポン, ハネウェル, ダウといった多国籍企業の大手300社により所有されている。
- 国内総生産(GDP)が、世界の最大手6社のそれぞれの年間売上高を上回る国は、21カ国しかない。
これは、例えばハイブリッドカーや有害な化学物質を使用しない製品といった社会・環境の保護につながるような製品を開発し、事業を行うという考え方である。文献では「新たな、真の社会的なニーズやプレッシャーに対応する製品」と表現されている。
BOPに関しては、以下のヒューレット・パッカードの取り組みが紹介されている。
- 零細企業促進プログラム (MAP: Microenterprise Acceleration Program)
- デジタル・コミュニティ・センター (DCC: Digital Community Centers)
- マイクロファイナンス
- iコミュニティー
所感
企業によるより良い社会の創造が骨子なので、援助を核とした経済発展を主張するジェフリー・サックスとは対極にある(ジェフリー・サックスの文献については「貧困の終焉」を参照)。
全体を通して先進国、特に米国の環境に敏感な企業や消費者を主な対象としているようだ。従って、世界中の企業や消費者の実態として纏めたものというよりは、今後企業や消費者はこの様に考えるべきだという啓蒙を行っている文献という捉え方が適切であろう。
但し、企業の事業活動が単なる利益の追求(市場からの搾取)ではなく社会と長期的に共存するという考え方は、我々のBOP市場へのアプローチの根幹と同じである。また、"企業が”より良い社会を作る事が出来るという骨子も共通している。
我々は、BOPでは営利企業がその事業を通じて社会的価値を向上させる事が最終的に企業価値の向上につながり、社会とwin-winの関係を構築出来るという仮説に基づき研究を進めているが、もしかしたらこの基本的な考え方は先進国、BOPを問わず共通になるのかもしれない。但し具体的に重要だと考えられる内容には明確な違いはあり、例えば先進国では環境保護、BOPでは経済/教育/医療、といったものであろう。
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