2009年10月30日金曜日

バングラデシュにおける公認会計士不足

世界銀行によれば、同国にはChartered Accountantsが750名しかおらず、経済成長中の1億5000万人口の国としては少なすぎる、と指摘。同国の会計士協会は、英国の同協会と提携して会計士の養成に乗り出す。

駐インドバングラデシュ高等弁務官が国務相に格上げ

キャリア外交官であるTariq A Karim氏の国務大臣への格上げは、バングラデシュHasina首相によるインドとの関係強化政策の表れ。

グラミンフォンが2009第3四半期の売上が10%増

バングラデシュ最大の携帯サービスであるグラミンフォンは、2009年3Qの売上高($239M)が前年同期に比べ10%増、加入者数で100万人増を達成したと発表。シェアは44%。ARPU(加入者一人当たり売上)も対前年同期比で6%増大した。

11月に株式市場での取引開始を予定する同社は、上場企業に与えられる10%の税率減免を今後享受することになる。

2009年6月期の経済成長率は5.9%(バングラデシュ)

08-09年度(2009年6月期)は5.9%、09-10年度(2010年6月期)の経済成長率は5%と見込まれる。
この5%という見込み数字は、2001-2002年度の4.4%以来の低さとなる。
2008-9の世界的景気冷え込みの影響を受けた、とIMF。


また、IMF高官は同国の潜在成長力は6%以上ある、とも発言。

2009年10月29日木曜日

BOPにおける事業成功の条件とは(WSJ)

コーネル大学が主導するBOPプロトコルの研究員による寄稿。P&Gによる浄水剤事業(製品名「PUR」)が商業ベースでは失敗し、結果的に慈善事業として無償配布する形になった事例を挙げ、それがなぜビジネスとしては失敗したかを解説しながら、BOPにおける事業成功の条件を説いている。

条件1:教育的キャンペーンを通じて、人々の価値観と行動を変える

 P&Gは、浄水剤を小袋に入れて一袋10セントで販売しようとしていた。新市場開拓時に必要と思われる現地ニーズの確認も周到に行った。だが、アンケートやインタビューではその種のものがあればお金を払ってでも買いたい、と回答していた人々は、いざ購入の場面に遭遇すると、様々な現実(10セント分の楽しみを捨てることへの抵抗)の前に購入をためらった。やはり利益の上がる市場はそこにはなかったのである。

条件2:事業をゼロから発想してから実施するまでの事業開発のプロセスすべてに、現地の人々を参画させる

 当事者意識を持ってもらうことが重要という話。大豆たんぱく製品のThe Solae Companyのインドでの成功は、極力現地の人々(現地の主婦層)を事業開発段階に巻き込むことによって普及が図られた。

条件3:製品バリエーションを可能な限り多く提供する

 市場ニーズに不確実性が大きいBOPでは、事前に正確にニーズをくみ取ることは難しい。ある意図をもった製品でも、当初の意図とは全く違う用途に用いられることもしばしばである。そうした潜在ニーズを逃さないためにも、コスト構造が悪化しないように考えながら可能な限り多くのバリエーションを提供し、その中からヒットが生まれることを目指したり、様々な用途を示すことが大切である。
 NPOながら、アフリカで多様なバリエーションの足踏みポンプを示し、拡販に成功したKickStartの例がある。また、先に営利事業としては失敗したP&GのPURも、その用途が困難や不衛生を軽減するというマイナスを埋める価値ではなく、その製品を使うと人々が集って料理する楽しみが増えたり、料理がずっとおいしくなったり、もっと味の良いジュースが飲めたりという、生活がもっと楽しくなるというプラスの価値を訴求すべきだった

「BOPを変革する情報通信技術 バングラデシュの挑戦」発刊

本フォーラムの研究対象そのものである。 2009年9月20日発刊


<アマゾンの書評から>

内容紹介

電気が通じていない農村で携帯電話を使う村人、電話線が整備されていない町で運営されるインターネットカフェ。開発途上国において、情報通信技術(ICT)が農村部でも人々の身近に存在する 風景は、ありふれたものになろうとしている。 本書の舞台であるバングラデシュをはじめとする開発途上国ではBOP(Base of the Pyramid:貧困層が人口の多くの割合を占める。世界で40億人以上といわれるBOPを巨大なマーケットとして再定義し、持続的なビジネスを通して貧困削減に取り組む戦略が注目を集めている。BOPマーケットでは、社会的利益を最優先させ、BOPの人々が自ら取り組む「ソーシャル・ビジネス」が重要であり、そこにICTは不可欠なツール となっている。ICTを活用することで人々は適切な情報を入手し、またコミュニケーションは人々の連帯を実現する。その結果、自らの能力に自信を持ち、単なる巨大マーケットの消費者ではなく新たな富を創造する生産者ともなりうる。 本書は九州大学とグラミン・コミュニケーションズの共同研究の成果に基づき、バングラデシュにおいてICTが導く社会経済の変革について具体的事例を綴ることで、そこに暮らすBOPの人々の姿を 明らかにする。

レビュー

2009/09/28 西日本新聞朝刊

■「日本の技術で母国発展を」 電子通帳発案者のアハメッド九大准教授 九州大学がバングラデシュで普及を目指すICカード式電子通帳の実証試験が、11月から首都ダッカで始まる。同国のグラミン銀行グループとの提携事業。発 案者は、同大学で情報技術の研究に携わるバングラデシュ人のアシル・アハメッドさん(39)。「日本で学んだ成果を生かし母国を豊かにしたい」と福岡、 ダッカを飛び回っている。 アハメッドさんは1988年、コンピューター技術を学ぶため来日。大分高専や東北大学、通信会社などを経て、2年前から九大で開発途上国の社会情報基盤構築の研究開発に取り組み、現在はシステム情報科学研究院特任准教授を務める。 電子通帳の事業は、同銀行が貧困層の自立支援のため無担保・低利で行う少額融資制度と連携。入出金管理に九大独自のICカードを利用し、効率化や不正防止 に役立てる。同銀行傘下のグラミン・コミュニケーションズの一員でもあるアハメッドさんが、九大伊都キャンパス(福岡市)で実用化された電子マネー機能付 きの学生証をヒントに考えた。同銀行総裁のムハマド・ユヌス氏も、取り組みを高く評価しているという。 母国は最貧国の一つに数えられる。 学生時代から支援に熱心なアハメッドさんは、自分の奨学金の一部を幼少期を過ごしたエクラシュプール村に送り、子どもたちの教育を支えた。情報格差を埋め ようと奨学金を元手に日本人の知人と基金を設け、同村の小学校など16カ所で新聞を購読させた。その輪が約250カ所に広がり、半数が自費購入する現状を 「人々が情報に関心を持つようになった」と喜ぶ。 20日にはアハメッドさんらの編著で、九大の取り組みを紹介する BOPを変革する情報通信技術-バングラデシュの挑戦」(集広舎、1890)を出版した。「情報技術は途上国の暮らしを豊かにする」。そう確信し、アハメッドさんは母国での実証試験に臨む。


バングラデシュやネパールで演劇を使った男性対象の衛生啓蒙活動

WaterAidが実施しているこの活劇を使ったアプローチでは、「男性はトイレを使いなさい、トイレを自宅に持ちなさい、さもなくばお嫁さんをもらえませんよ」というストーリーを展開するのだそうだ。

Bangla Lion CommunicationsがWIMAXのCPE(宅内機器等)を台湾メーカーから10000台購入

今回の台湾系メーカーAccton Technology社からの機器調達には、USB network cards, indoor and outdoor WiMAX terminal-end devicesが含まれるという。

WIMAXライセンスを獲得しているBanglaLionCom社は、同社のWIMAXインフラ充実のため、向こう5年間で$250Mを投資し、基地局を現在の900から6000に増設する計画。

USAIDがスポンサーとなってカーボンファイナンスのワークショップが開かれた(ダッカ)

米国大使館のプレスリリースによれば、このワークショップ開催を契機に「バングラデシュは排出ガスの削減、土地活用効率の向上、貧困の削減、生物多様性の保持の方策として、カーボンファイナンシング(注:排出権取引含む)の可能性を探ることができるだろう」とのこと。

ダッカにSpecial Begging Zone?

バングラデシュの首都ダッカには約27000人のbegger(他の人からの施しを求める人々)がいる。Hasina政権は、その行為を禁じているが、その実効性を高めるため、beggerがその状況から脱却するプログラム(職業訓練やシェルター、リキシャの供給)を実行し、都市のイメージを改善させるという。もしもbeggar離脱プログラムが功を奏しない場合は、首都に「特別地区」を設け、beggerをその場所に限定させる方針とのこと。





犠牲祭を前に1000万世帯に各10kgの米を支給(バングラデシュ)

今年は11月末の三日間に決まったEid-ul-Azha(犠牲祭)に合わせ、政府はすでにそのための10万トンの米を確保しており、Vulnerable Group Feeding (VGF) cardの保持者に来月中に支給するという。VGF対象世帯は、今年8月のラマダンに合わせてすでに計98,436トンのコメを支給済みだ。

このVGF対象世帯数は、昨年560万だったが、政府は今年初めには710万世帯に、さらに8月のラマダン時点で現在の1000万世帯に対象を拡大している。

2009年10月27日火曜日

BOPにおける企業活動と「平和」の前提

本フォーラムの検討対象を明確化しようとするエントリーをこのところ続けたが、これまでの議論で欠落していた視点がある。それは平和であるか否か、ということだ。戦争状態と貧困の因果については語るまでもない。

特にBOPの場合はなおさら、程度の差こそあれ、地域紛争や内戦・テロなどの活動と貧困が互いを再生産するという実情がある。その点で、阪大の川崎和男教授がblog「資本主義からの逃走」で、「すでに、BOP-Businessを語り始めている輩に、何が出来るというのでしょうか。疑問です。その最大の理由はBusiness以前の問題があるからです。」とし、その問題解決のためにBOPで取り組むべきこととは「PKD=Peace-Keeping Design(平和を維持するためのデザイン)」と主張されている。

実はこれまでの本フォーラムでの議論は、企業が事業活動を行うことができる最低限の「平和(社会・経済・政治体制の安定)」を前提とし、「戦争状態」にある地域・国を暗黙的に除外していた。だが、真実をそのまま見つめれば、特にBOPではこれを暗黙的な前提とはできない。

たとえば本フォーラムで多くの情報をカバーしているバングラデシュにおいては、昨年12月のHasina政権成立以来それなりの安定を見せてはいるものの、その後もミャンマーとの国境付近やチッタゴン丘陵部では現在も不安定な状況が続き、かつて同国であったパキスタンでは数十名が死亡する自爆テロが発生している。

しかしながら、本フォーラムでは、BOP市場における「戦争の解消と平和の確保」そのものを第一義的目的とはしない。直接政治的手段を行使することによって能動的に平和を確保する活動は、残念ながら企業が主体となる事業経営の世界では外部環境となる。つまり、平和であるか否かは、「与件」として扱われ、最低限の平和が確保されている地域での事業活動を前提とするべく、政治的社会的リスクの察知と対応、リスクマネジメントを行うことになる。あくまで経済活動の発展によって貧困を緩和し、それが結果的に平和の「維持」につながる、というパスでの貢献に限定される。

ここに、企業経営を基軸において、ビジネス研究者や企業人がBOPを議論し活動する際の限界、境界線があり、真の意味での「包括性」は成立していない。PKDの視点に立てば、その中の極めて小さいヒトこま、を論じていることになる。根本的原因に対する姿勢が「甘い」と言われれば、現時点では甘んじて受けるしかないだろう。

2009年10月26日月曜日

「BOPビジネス」の多義性

 昨今の「BOPビジネス」に関する論評を見ると、そのとらえ方や定義が論者ごとに異なることがわかって興味深い。

たとえば藤井(2009)は、「独り歩きする“美しいBOP”:社会貢献・利益追求の混同は危険」の中で、まずBOPビジネスをBOP1.0(BOPをモノを売る市場としてのみとらえる視点)のベースで定義している(そう定義しているのだからそれ自体は問題ではない)。また(本フォーラムと同様に)BOPビジネスは営利活動である、とも定義している。そのうえで、「『BOPビジネスとは貧困対策のために行うビジネスである』、と(中略)不必要に公共性を前面に出した誤解が広がりつつある。」と述べている。たしかに「BOPビジネス」をBOP1.0のモードで解釈する限り、そこに「貧困対策」という「公共性」を主張するのは、著者の指摘通り行き過ぎであり、誤解と言ってよいだろう。

nouvelle shinoiseの最新エントリー美化されるBOPビジネス…、甘い言葉に要注意」2009.10.26は、上記藤井(2009)と類似したタイトルであるが、BOPビジネスのとらえ方は異なっている。なぜならば、「美化されたBOPビジネス」として示されている事例が、英国の営利企業(Diageoというビール会社)が設立したDiageo財団による非営利のフィランソロピー活動だからである(注:財団法人は定義として非営利)。この場合、企業が設立した財団が地理的にBOPで展開する非営利の貧困解消活動も「BOPビジネス」の範疇に入る、ということになる。非常に広く「BOPビジネス」をとらえていることになる。

一方、いわゆる「美しいBOP」とは無関係の論評であるが、日本総研の竹林正人氏による「BOP市場参入にみる企業の組織イノベーション能力」は、BOPにおける事業活動に対し、個々の企業はそれぞれの能力・意図に従って異なるアプローチをとるべき、という前提で議論されており、個別企業の異質性を前提とする本フォーラムの企業戦略の視点に大変に近い。

このように、ある概念・考え方・現象が新たに議論され始めている現在、本フォーラムを含め背景の異なる論者ごとに同じ言葉が異なる定義を与えられている。そうした現象は十分に起こり得ることだ。従って、「BOPビジネス」に興味を持つ人々は、同じ言葉の含意が論者によって異なっていることを意識すべきである。さもなくば理解に混乱が生じよう。また、そのような異なる定義の下ではapple to appleの生産的議論が成立せず、水掛け論が生じることもあり得よう。これでは誰にとっても益がなく、本来目指すべき止揚も期待できない。

繰り返しになるが、本フォーラムでは、BOPに対しては多様なアプローチの可能性があることを、そして多くの人間活動の背景には善意が存在することを前提に考えている。実務的・学問的背景の異なる論者が、建設的批判と生産的議論を行う素地が整っていくことを期待しよう。

<参考文献>
竹林正人(2009)「BOP市場参入にみる企業の組織イノベーション能力」日本総研Sohatsu Eyes2009年10月14日:
藤井俊彦(2009)「独り歩きする“美しいBOP”:社会貢献・利益追求の混同は危険」国際開発ジャーナル, 2009年10月号, p.8-9.

2009年10月24日土曜日

BOPにおけるナショナルIDシステム

携帯電話の普及が急速に進むBOPにおいても、IDシステムはいまだ未発達である。今後BOPの特性上発展が期待される携帯ベースの電子マネー決済やモバイルバンキングでもIDシステムが必須となる。

ドイツの研究者Dr. Nicola Jentzschが全世界各国のID普及率とその形態を明らかにしている。




2009年10月21日水曜日

「BOP」への多元的アプローチの存在と本フォーラムにおける検討対象

1)本フォーラムでの議論の対象

 昨今の「BOPビジネス」に対する関心の高まりを受けて、日本においても複数の論者によって様々な立場から「BOPビジネス」の一義的解釈が試みられたり、一定の立場から懸念や限界が指摘されたりしている。だが、異なる論者が各々異なる定義・含意で「BOPビジネス」という言葉を用いると、これは同床異夢で議論のすれ違いばかりが際立ち、実のある議論は望めない。

 たとえば、本フォーラムでは「『BOP』における企業活動」の成功には、1)利益の継続実現を追求すること、2)活動プロセスで社会責任を全うすること、3)手段もしくは目的として貧困削減に貢献していること、これら3つの要件を満たしていなければ「BOP」における事業活動が「成功している」とはいえない、と考えるが、①単に担い手が企業であり地理的場所が「BOP」である活動、②上記3つの要件をすべて高い水準で満たしている「BOP」での事業活動、③上記の要件をそもそも満たすつもりのない「BOP」での事業活動、などをすべて渾然一体としてとらえ、一言で「BOPビジネス」と称して議論することは無意味だろう。重要な次元で異なっている複数の概念を混同したまま、「BOPビジネスとは、、、」という符牒化・一般化が試みられると、これは読む側に混乱を招くだけだ。よって本フォーラムでは今後「BOPビジネス」という言葉は原則として用いない。


 既存研究(別途論じるが、PrahaladやHart等をはじめとする一群の研究)では、「『BOP』における貧困解決と利益実現を両立させる」という文脈を前提としてきており、本フォーラムもその延長上に問題意識を共有している。本フォーラムでは「『BOP』において、BOP2.0の原則の下で、必要水準の利益を持続的に確保しつつ、社会問題(貧困解消等)解決にも資する事業」企業の営利性と社会性に関するエントリーでいうところの「BOP2.0ベースの第5世代」が成立する条件を検討対象にする

2)「BOP」への多元的アプローチの可能性

 「BOP」の現状を鑑みて、衆目の一致する目指すべき姿の一つは、「最貧層の地元経済が持続可能な形で発展し、一人ひとりの経済状況や幸福度が改善していくこと(貧困の解消)」にあるといえるだろう。だが、その手段としては、個々人の努力、国際機関、NPO、NGOによる活動、現地政府や先進国政府関連諸機関の活動、地元企業の活動、小規模ベンチャー企業、多国籍企業の活動と、多様な方法論およびその組み合わせが考えられ、それら様々な選択肢に試みられる価値があるだろう。

 本フォーラムは、それら多岐にわたる方法論の中で、特に多国籍企業の経営資源(製品技術、生産技術、経営ノウハウ、資金調達能力等多様なものを包含する)を活用した利益ベースの活動(詳細は後述するが、事業活動の持続性・拡張性を担保する原資の獲得と効率性の担保、および外部資金を誘引する力を確保するためには、利益の追求が必要という立場)を包含するアプローチに着目する。そして、このアプローチが成功する条件を明らかにしようとしている。

 さらにこのアプローチは、「BOP」の特性から必然的に、既存のNPO、NGO、地元企業、政府諸機関等と選択的に連携することを必要とするだろう。なぜならば、これまで「BOP」の諸問題に関与し解決してきたそれら主体との協力の必要性はあまりに高く、かつ学ぶべき知見もあまりに多いからである。ここにすでに顕在化している先進国・新興国市場との違いの一つがある。

 なお、昨今「ソーシャルアントレプレナー」「社会起業家」「社会的企業」と呼ばれる存在は、実態として非営利活動(NPO)と営利活動(株式会社)が混在した形で議論されている。だが、共に前提として「社会的価値の追求を経済的価値に優先する」と一般に定義・認知されている。だとすれば、あくまで利益確保を前提とする本フォーラムの趣旨とは完全には合致しない。

3)「『BOP』市場における利益と持続性の確保」は、すべての企業が取り組むべき、もしくは取り組める、性質のものではない

 企業戦略論は、その大前提として個別企業の異質性を重要視する。すなわち、個々の企業により、保有する能力も資源も戦略的意図も様々に異なる、という前提である。

 「BOP」市場における事業活動とは、すでに顕在化した先進国・新興国市場と比べ、はるかに厳しい制約条件の下で遂行されねばならない。単にモノを売るだけでなく、雇用創出や現地経済の購買力向上も同時に実現させる様々な努力と工夫と覚悟(過去のエントリー「BOP2.0」)が必要である。不確実性やリスクも相対的に大きい。「『BOP』における利益創出と貧困解消の両立」というミッションについても、まずそれを事業ミッションとして選択するか否かが企業自身の選択に委ねられるし、さらに取り組んだとしても成功不成功の差が企業間で大きくつくだろう。

 すなわち本フォーラムで議論の対象とする「『BOP』における企業活動」とは、すべての企業に対しておしなべてそれへの取組みを推奨するようなキャンペーンとは質的に異なっており、企業が採り得る戦略上の選択肢の一つにすぎない。個別企業の異質性の前提に立てば、「『BOP』市場への取り組み」は個々の企業が主体的能動的かつ選択的に行うものであり、コンプライアンス(法令順守)や本業以外での社会貢献活動(フィランソロピー)、「環境にやさしい経営」のように、広くあまねく企業に求められるものと同列に議論することはできない。

 たとえば「BOP」において、営利企業が純粋に非営利活動として何らかの貧困解消事業/活動に取り組むこともあるだろう。しかし、それはいわゆるフィランソロピーの範疇に入るものであり、本フォーラムの検討対象にはならない。

4)「BOP」における企業活動と企業の社会責任

 「BOP」における企業活動は、まさに存続をかけた「事業」であり、それ以上でも以下でもない。よって欧州発の本来のCSRで求められる「本業の事業プロセスにおける社会責任」(藤井2005)も当然ながら要求される。すなわち、「BOP」において搾取的賃金の下で労働を強いたり、不当な低価格で原材料を調達したり、環境を破壊する収奪や土地開発を行うことなどは許されない。「BOP」での事業を真の意味で成功させるには、その100%の保証とそれを支える信念・指導力が求められる。

 一方で、この「『事業プロセス』において果たすべき社会責任」と、「BOP」における事業活動を選択した企業が「事業目的の一つとして貧困解消を意図するか否か」は、別物である。前者は事業活動の場が「BOP」であるか否かに関わらず、より普遍的に要請される性質のものであり、後者は個々の企業が主体的に選択する問題であって、すべての企業がおしなべて要請されるタイプのものではない。

5)「BOP」における企業活動において「貧困解消」は手段か目的か

 前項を受けて、「BOP」での企業活動における貧困解消の位置づけを考える。それには二つの考え方があり得る。第1は、事業目的そのものに利益創出と貧困解消を掲げ、それらの両立を図る考え方である。第2は、事業の目的はあくまで必要な水準の利益を持続的に達成することであり、貧困解消への取り組み(「BOP」における雇用機会・事業機会の創出による購買力の増大等)は、そのための必要条件・手段の一つとみる考え方である。いずれにせよ、貧困解消を顧慮せず、一方的にモノを売るだけのBOP1.0 では、既述のように事業の持続性確保は難しい。

 ここで事業の失敗がどう判定されるかを、それぞれのパターンで考察してみよう。まず、第1の考え方(事業目的として利益と貧困解消の両立を選択した場合)をとったとすると、求められる水準の利益を上げられないか、貧困解消の実現に失敗するか、もしくはその両方が果たされない時点で、「両立」に失敗したことになり、それはすなわち事業の失敗となる。第2の考え方であれば、事業を遂行する途上で、調達した資金の出し手(投資家)が期待する最低限の利回りを満たせなくなった時点で、事業は失敗したとみなされよう。

 結局のところ、貧困解消を目的の一つとして捉えても(第1)、手段と捉えても(第2)、結果的には貧困解消と利益が両立していないと、「BOP」における事業の成功は成り立たないことがわかる。どちらのアプローチを選択するかは、まさに個々の企業に委ねられる問題であり、こうすべき、という規範的判断は下せない。

6)利益の役割

 「利益の追求」という言葉が否定的な意味合いで用いられることがある。そこには暗黙的に、利益というものは経営者や株主など、一部の利害関係者で独占されるという、漠然とした不平等感、被搾取の感覚があるのかもしれない。だが実際には、一口に利益といっても、そこには階層構造があり、多様な利害関係者に配分されている(下表)。例えば、営業利益の中からの配分先は、債権者(支払利息)、国や自治体(法人税・地方税)、株主(配当)、役員(賞与)、各種団体(寄付。もし行なうと意思決定するならば)、そして自社(将来への投資に使える内部留保)となる。


 すなわち上記の観点から、企業が生み出す利益を仮に営業利益(本業から得られる利益)と捉えると、

 第1に、利益はその事業を発展・拡大させていくために必要不可欠な投資の原資となる。継続的な利益確保が重視されるゆえんである。

 第2に、営利企業(株式会社)の場合、元本保証のないリスクをとった投資家から資金提供を受けていれば、その投資家(株主)が資金を投じる上で期待している少なくとも最低限の利回り(株価と配当もしくはそのいずれかを通じ)を実現させるため、経営者は利益獲得の努力を惜しんではならない。営利企業は、こうした投資家の意向に応えようとするからこそ、より大きな外部資金の誘引が可能になり、事業活動の拡張性を高めることができる。

 第3に、銀行等の金融機関からの借り入れによって事業維持拡大の資金を得ている場合、負債に対する利息を間違いなく支払うことにより、さらに信用が拡大し、より大きな資金の借り入れが可能になる。

 第4に、いうまでもなく、利益を課税所得のレベルでとらえれば、利益の増大に比例して納税額も増大する。これにより所得の再配分機能を通じて社会に貢献する。BOPの現地法人できちんと利益を上げることにより、より多くの税を納め、それによって現地社会に貢献する。(脱線だが、現在、日本では法人税収の落ち込みから子供手当の財源確保に四苦八苦しているし、例えばトヨタの業績不振は豊田市・田原市・愛知県の税収を1千億円単位で減少させ、公共サービスの継続が危惧されたりといった深刻な影響を与えた。)

 第5に、営利企業は多様な利害関係者の監視の下に置かれる結果、経済合理性の判断が強く求められる。特に株主(背景には株式市場)の存在は厳しいチェック機能として作用する。利益を上げるために求められる資源の有効利用や無駄の排除、徹底的なコスト削減能力などは、BOP市場での事業活動を成功させるうえでも、特に高い水準で求められるものだ。

 第6に、従業員の給与水準について考える。直接部門(主に製造部門)従業員の給与は売上原価にカウントされ、販売・管理部門の従業員給与は粗利益ベースで配分される。そして原価低減・経費削減の観点からは、常に人件費を低減させる圧力が働く。だが、先に述べた事業プロセスにおける社会責任とBOP2.0の観点から、「BOP」事業を成功させるためには、決して搾取的水準に陥ることなく、現地経済の購買力を持続的に向上させられるような適正水準で給与を支払うことが重要となる。

 総じて、「BOP」で事業に取り組む多国籍企業、およびそれと連携する地元企業や地元起業家も、共に事業の持続的拡大へ向けて努力し、そのためにも利益拡大に努めることが合目的的といえる。利益の持続的確保・拡大は、貧困解消をもたらす事業活動の継続を担保し、効率を高め、さらに拡張させる役割を果たすことができるだろう(その過程で「事業プロセスにおける社会責任」が要請されることは既述の通りである)。また、企業を取り巻く多様な利害関係者へも配分が行なわれ得る。各種利害関係者への配分比率の決定は、個別企業の選択に委ねられる部分もあり、まさにそこには個々の企業のミッションや理念が反映されるだろう。

7)本フォーラムの取り組み

 上記の前提に立って、本フォーラムでは、多国籍企業の経営資源の活用を通じ、「BOP」市場に根差した事業活動を拡張させ、利益と社会問題の解決を両立するにはどのような条件を満たすことが必要か、を明らかにしようとしている。その中には、より実際的な成功条件(ビジネスモデル、提携パートナーの選択、望ましい資本構成等々)はもちろん、戦略理論で前提とされている企業の存在意義そのものをどう見直すべきかや、戦略評価基準の修正など、多くの課題が存在しており、それらはいまだ完全には解決されていない。これらのテーマを含め、研究対象としていく。(岡田)

<参考文献>
藤井敏彦(2008)「ヨーロッパのCSRと日本のCSR:何が違い、何を学ぶのか」日科技連出版社p.39-40.

2009年10月20日火曜日

「気候難民 "climate refugees"」で膨張する首都ダッカのスラム(バングラデシュ)

<サイクロンのもたらす被害>

2007年11月、2009年5月と連続して発生したサイクロンのため、地元で家と仕事を失った人々が続々とダッカのスラムに流入している。

25歳の母親は「主人は今、ここダッカで漁師の仕事を少ししているけど、二人の娘を連れて南部の地元に帰りたいと思っています。ここには家もまともな仕事もないのです。」と語る。

IPCCによれば、これまでこのような大型サイクロンの発生は15‐20年に一度だったが、今では2‐3年に一度の頻度になっており、2050年までに2000万人のバングラデシュ人が居場所を失う恐れがあるという。

<首都ダッカの変容>

1974年に18万人だったダッカの人口は、2009年には1200万人を超えた。世界銀行は、2020年までに2000万人を超えるだろうと予測する。

2006年の調査によれば、ダッカ人口のうち300万人が市内のスラムに居住する。1996年の160万人から10年でほぼ倍増した。

IPCCのRahman氏は「サイクロンの警告体制、災害マネジメント体制の一層の充実とともに、都市機能の分散によって人口の集中を抑制することが必要」と述べる。同国第2の都市チッタゴンの人口は300万人にすぎない。

同国政府は、こうした気候変動によってもたらされる水害や都市機能の整備には、向こう5年間で$5B(約5000億円)が必要とし、今年12月のコペンハーゲン環境サミットに期待をかける。

2009年6月に発表されたEconomist Intelligence Unitの世界主要都市住みやすさランキングで、ダッカは139カ国中138位であった。理由には、慢性の水不足、電力不足、渋滞のひどさ、人口密度の高さが挙げられた。


写真と記事:

ワニ養殖ビジネスが順調に成長 Reptile Farm Ltd. (バングラデシュ)

Reptile Farm Ltd.は、2003年創業。ワニは順調に増え続け、400頭を超えた。来年には出荷可能な大きさに成長するという。

創業者のMushtaq Ahmed氏は、ダッカの北122キロの荒れ地を開墾、養殖場を開き、マレーシアから75頭の種ワニを輸入して事業を始めて以来、800頭ほどが生まれた。オーストラリアから専門家を招いて養殖のトレーニングを受け、現在は100%現地人材10名で養殖している。メインの養殖業に加え、ワニの見学ツアーや教育・研究に資するボランティアプログラムを実施している。

現在想定されている主要顧客は中国で、肉と骨の輸出が見込まれている。一方、皮革は日本や欧州市場がターゲットで、2015年までに5000枚の輸出を想定している、と会長のMesbahul Hoque氏。

創業以来現在までの投資額は約$1Mで、2012年末までに全額の回収を見込んでいるとのこと。

現在同社は外部からの投資を募っている。さらなる投資ができれば、黒字化も早くなる、と会長。
「我々は、荒れ地を工業用地に転換した。国中からの見学客が増えており、そのおかげで現地の経済活動も発展してきた。」

太陽光発電による灌漑用ポンプ Rahimafrooz Renewable Energy Ltd. (バングラデシュ)

Rahimafrooz Renewable Energy Ltd.は、1954年創業のコングロマリットであるRahimafroozグループ(各種エネルギービジネスに強い)の傘下。

このたび同社製のソーラー灌漑ポンプが、Savar地区のKaishar Char 村(ダッカの北西24キロ)に導入された。

同社が2004年に開発した同国初のソーラー電源による灌漑ポンプは、すでに10機が政府とNGOに納入されている。同社は20年間の継続的使用を保証している。今回設置されたポンプの導入費用は300万タカ(約450万円)。これまでのディーゼルエンジンタイプから転換することにより、1年使用すると、760MWの電力と 800Mリットルの軽油を節約できる。

solar powered irrigation pump launched1

バングラデシュの文化資産

豊富な文化・観光資産の一端。



バングラデシュ国際収支 2009年7月は$694M黒字

主な要因  (注:同国の財務年度は7-6月)

1)海外からの送金:09-10財務年度7月$886.39M(前年同期比8%増)

2)海外からの直接投資(FDI):08-09年度7月$71M (前年同期$100M)

3)貿易赤字:09-10年度7月$113M (前年同期:赤字$320M)
  ちなみに09‐10年度7月輸入への支払が$1555M、輸出による収入が$1442M。  

これらを含め、
経常収支:09‐10年度7月 $609M黒字 (前年同期$264M黒字)

そして、
国際収支:09‐10年度7月 $694M黒字 (前年同期$217M黒字)


バングラデシュ通信業界に活発な動き

グラミーンフォンの上場以外にも動きがみられる。

1)グラミーンフォン上場
国内個人投資家からの調達:$71M
法人からの調達:$70M

2)バングラデシュ株式市場
GP上場が刺激となり、先週木曜日に1996年のクラッシュ以降、過去13年間の最高値更新

3)携帯のSIMカードへの課税の影響
新規契約時にSIMカードに対する800タカ($11.6)の課税の影響で、2009年上期の契約者増分は2.57Mにとどまり、2008年上期の9.33Mから大幅に減少。通信業界は課税取りやめ、もしくは減税の声を上げている。とはいうものの、利益は成長(下記)。

4)携帯各社の2009上期業績
  ●利益
GP:   2008H1 $429M、 2009H1 $465M
Banglalink: 2008H1 $132M、 2009H1 $170M
Aktel:  2008H1 $105M、 2009H1 $131M
  ●ユーザー一人当たり売上高
GP:   2009H1 $3.67
Banglalink: 2009H1 $2.55
Aktel:  2009H1 $2.86

5)海外テレコム企業からの出資意欲
 すでにラオスとカンボジアへの投資で成功しているベトナムの国営企業Viettel社は、バングラデシュのTeletalkへ$250Mの出資を交渉中である。
 さらに、インドのBharti Airtel と Reliance Communicationsの2社はバングラデシュでの地中ケーブルの新設をBRTCに申請中である。インドでも陸の孤島である諸州へバングラデシュ経由で接続させる意図がある。


バングラデシュ 3ft(約1m)の海面上昇で国土の17%が水没

国連は、2050年までに地球温暖化による海面上昇が3ftに達すると、バングラデシュの海岸線の4分の1がはんらんし、国土の17%が水没するという。

また、ヒマラヤの氷河が供給する雪解け水が減退し、季節性の高い降雨が川の流量を支配するようになり、より不安定さが増す。

9月1日発表の国連の報告書によれば、地球上の発展途上貧困国が化石燃料から再生可能エネルギーに完全に転換するには、毎年$500-600Bの資金が必要になるという。


バングラデシュ 11の商業銀行が利子率を大幅に削減

19日発表のBB(バングラデシュ中央銀行)の発表によると、主要11行の預貯金利息率が大幅に削減され、定期預金は1.25 %から10.03%の範囲に、普通預金は1%から8%の範囲になったという。ある商業銀行幹部の話によれば、利子率削減により、より多くの資金が新たな分野に投資されることを促進するとともに、銀行の収益力を高める効果がある、という。

2009年10月16日金曜日

Access to Energy for the Base of the Pyramid:BOPにおける「エネルギー源へのアクセスの欠如」に対する市場ベースの解決策

社会的価値と経済的価値(利益)を両輪とするモデルが描かれている。

ハイブリッド(経済的価値と社会的価値の追求)コンサルティング会社のHystraと、社会起業家支援のAshoka財団による共同研究の報告書が今月発刊された。

BOP層が抱える最重要問題の一つが「エネルギー源へのアクセス」である。この共同研究は、この問題の解決に対し、市場原理に基づく方法論(market-based approach)が有効に作用するケースを明らかにしている。

読了次第、内容についてもコメントする予定。

報告書全文:

YouTubeにある本報告書概要説明:

2009年10月15日木曜日

ユニクロ、西友(ウォルマート)のバングラデシュ生産戦略

ユニクロは既報の通り、2008年に中国2社、バングラデシュ1社と共同でバングラデシュに縫製会社を設立し、ユニクロ自身の駐在員事務所を開設している。

今回、西友が発売したジーンズはウォルマートのバングラデシュでの調達網を活用したもの。

元々縫製ビジネスが盛んな同国への注目が高まっている。

2009年10月13日火曜日

“ネットカフェ”による貧困改善

日経ビジネスOnLineにバングラデシュのグラミン・コミュニケーションズによるテレセンターが紹介されている(我々が今年6月に訪問した際は、CIC Community Information Centerと呼んでいた)。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20091008/206660/?P=1



記事の中にはbracNetのe-hutとの簡単な比較や、ワン・ビレッジ・ワン・ポータルという農村毎のポータルサイトを作成する取り組みが始まった様子も紹介されている。

なお、記事の中にビレッジフォンのモデル図が書かれているが、グラミンフォンとグラミンテレコムの位置が逆になっているので注意。正しくは、
  グラミンフォン → 携帯電話事業者
  グラミンテレコム → 非営利団体
である。

BRACによるUltra Poor Programの評価報告書

マイクロファイナンス(MF)を即利用可能な層は、貧困層の中でも相対的に富裕な層である。そこでBRACは現状ではMFを利用できない層を対象に新たなプログラムを始めた。経済的自立に求められる社会心理学的なトレーニング、MFの活用法、小事業の始め方など、多面的なトレーニングプログラムと組み合わさったものだ。

BRAC, London School of Economics, University College Londonによる共同実証研究。最貧困層の多面的な分析が行われており、極めて興味深い報告書。

本文はこちら:

2009年10月11日日曜日

GarminのGPS機器に搭載可能なバングラデシュの地図情報

先の同国訪問時に、現地のベテランガイドが「あまり地図はあてにならない」と述べていた。はたしてこのGarmin用のデータが何をベースにしているか調べていないが、一応アップしておく。
何かに役立つかもしれない。

バングラデシュ エネルギー不足

ガス不足の深刻化と、それがさらに引き起こす電力不足の現況分析・論評

「バングラデシュにおける開発」と題したセミナーが開催された(Harvard Univerdsity)

正式なセミナー名称は:Ideas and Innovations for the Development of Bangladesh:The Next Decade
Bangladesh Development Initiative-USA、Democracy and Development in Bangladesh Forum、そしてthe Ash Institute for Democratic Governance and Invention of Harvard Kennedy Schoolの共同開催。

様々なイシューが議論されたが、エネルギーに関し、講演者たちは「都会と農村部の差は莫大。村々は完全に無視されてしまっている」と述べた。

Kamworks Ltd.: 大学と共同開発したソーラー製品によるカンボジア農村部の電化

同国人口の9割は農村部に居住し、電気へのアクセスがないという(同社ホームページより)。2006年創業のKamworksは、太陽光発電装置をベースに様々な製品群を組み合わせてカンボジアの貧困層向けに提供している。

最新の製品はMoonlight。ソーラーパネル、LED、充電池を組み合わせたもの。昼間光で発充電することにより、夜間に3時間の点灯が可能。オランダのDelft大学の学生チームが同社のためにカンボジアに4カ月滞在し、設計を行った。現在、夜間の照明用にはケロシンを使用するランプが数百万台使用されているが、コストパフォーマンスや安全性の点でソーラー電灯が優れているという。一つ20ドルで10月13日に発売。灯油ランプから切り替えた場合、1年未満で元が取れるという。

Moonlight:




Delft大のチームのプレゼンテーションはこちら:






2009年10月9日金曜日

バングラデシュにおけるカーストの実態

ところで、先のエントリーで触れたuntouchablesという言葉が気になり、カースト制が法的には葬られた現在、実態はどのようなものかが気になったので調べた。IHEU(国際人文倫理学連合)によるバングラデシュに関する最新の記述(2009年8月)があった。http://www.iheu.org/untouchables-bangladesh

これによると、イスラム教徒が90%、ヒンドゥー教が9%という同国で、職業的に差別されるDalitsと呼ばれる人々が現在も存在する。中でも少数派であるヒンドゥーの中のDalitsの実態は過酷で、「不浄」という認識の下、公営のシェルターやスラムに居住している。歴史的には、英領インド(バングラデシュも当時はその一部)の時代に召使としてインドの他地域から「輸入」された人々の末裔が多いが、それ以外にも都市生活で貧困に落ちた人々が流入しているという。記事の中には、ベンガル社会でのカーストの実際が詳細に述べられている。

7月の同国訪問時にも、ダッカ市内のスラムを訪れたが、3メートル四方程度の掘っ立て小屋が立錐の余地なくひしめき、一軒に5-6人の家族が住む様子を目にした。一筋の救いは、そこに住む子供たちの元気な笑い声だった。

伝統的「施し」の感覚

「貧しい民へのほどこし」を報じるカナダの新聞の記事。
http://www.stcatharinesstandard.ca/ArticleDisplay.aspx?e=2091499
この記事ではバングラデシュの最も貧困度の高い北部の農民をthe untouchables (インドのカースト制度における最下層民。不可触賤民。)と呼んでいる。チャリティーイベントを開いて資金を作り、屋根のない家に住んでいる人々に屋根をつける活動が報じられている。untouchablesという言葉が新聞記事に出てくることが少々驚きだった。

もちろんこうした善意はありがたいものであり、少なからず人々を救っている。だが、より大規模に個々人の自立を支援する方向の「共同作業(⇔ほどこし)」が必要なのだろうと考えさせられる。

Green Revolution to Famine? Nkuuhe interview

AGRA(the Alliance for a Green Revolution in Africa)は、アフリカ諸国自身による、アフリカ諸国の農業生産性を上げることで飢餓や貧困を解消しようとするイニシャチブである。AGRAはGates財団が大きな支えになっている。このAGRAにより、これまで支援が十分でなかった小規模農家に対する援助が行われようとしている。しかし、UNDPやMDGsに携わってきたNkuuhe博士は警鐘を鳴らす。「収穫率の高い遺伝子組み換え作物の導入は、灌漑や化学肥料で特定の最適条件を満たして初めて想定通りの生産性が得られるもので、それが満たされなければ失敗する。その際、援助で無料の外来化学肥料を配るのはいいが、それが続かなくなった時が問題。これまで無料で慣れてしまったものが、いきなり有料になったとき、化学肥料が使えなくなり、惨状が待っている」と。

先のエントリーで触れた書籍「死を招く援助」(バングラデシュの農業支援の実態)でも、すでに20年前から指摘されている同じ問題である。7-80年代にドイツ政府の援助によって高生産性の品種(イネ)が導入されたのはいいものの、その品種は化学肥料や水分を最適条件で施さねばならず、洪水や旱魃等自然条件の変化が激しいバングラデシュでは栽培が難しく、その間長年にわたって栽培され続けてきた土着品種が衰退してしまった。結局、確実に収穫が見込まれる土着品種(生産性はそれほど高くないが、とにかく天候不順に強く、化学肥料も不要)に戻されたという話。

YouTube:

2009年10月8日木曜日

バングラデシュが輸入材料による衣料製品の輸出にもGSP-plusステータスを与えることに

バングラデシュには、EUから、EU市場向け衣料品輸出を無関税で行なえるステータスが与えられているが、これまでその恩恵が得られるのは、バングラデシュ国内の織物業界団体の意向を反映し、同国産の生地を使用した製品に限られていた。それがこのたびパキスタン産の生地を使用した衣料製品にも認められることになった。スリランカや他のSAARCメンバー産の生地についてはすでに同様の取り扱いになっていると見られる。パキスタン産生地への適用は2010年1月1日から。
これにより、バングラデシュの衣料メーカー、縫製メーカーの生産拡大・輸出拡大は大きく支えられることになる。

2009年10月6日火曜日

バングラデシュが人材開発においては「medium developed nation」に仲間入り(UNDP)?!

国連のUNDPが10月5日に発表した報告書によると、バングラデシュは2007年のデータを基にした最新のHuman Development Index (HDI)が(life expectancy, education and the standard of living の着実な改善が貢献して)1.86%上昇、昨年発表の186カ国中144位から146位となった。

特に今年の報告書「Overcoming barriers: Human mobility and development」が注目しているのはMIGRATION(移住)が人材開発にもたらす効果である。同国では、人口の4.5%が国外移住しており、移住先の90%以上はアジアの先進国である。同報告書によれば、こうした移住は、移住者自身、移住先コミュニティ、移住者の出身地のコミュニティに対し、「人材開発を強化する」という。

一方で報告書は、移住(特に国内移住)は、貧困の解消に特段に効果がある、とも指摘している。「バングラデシュとインドで得られたデータによれば、家計の中で少なくとも一人の家族が国内の他地域に移住している場合に、貧困率の減少が見られる」。

UNDP在バングラデシュ担当者は、なかなか解消しない都市部における極度の貧困と、農村部における貧困率の著しい改善が同時に生じており、より包括的な戦略が必要だ、と語った。


<コメント>
貧困解消はなかなか一筋縄ではいかないようだ。「移住」によって農村部の貧困率が減少しているとは言っても、1)働き手が都市部や国外に出稼ぎに出て仕送りをするので地元に残してきた家族の収入が増えるのか、2)農村から都市部へ家族が移住することで事実上口減らしになり、残された家族の貧困が解消され、都市部へ出た者はそのまま都市のスラムで極度の貧困にあえいでいるだけ(貧困の単純移動)なのか、実態を見極める必要がある。


バングラデシュが食糧備蓄のため6万トンの小麦粉を調達

入札締め切りは11月16日。
バングラデシュ政府のFood and Disaster Management ministryが購入者と思われる。昨年7月にも同様の調達が10万トン行われ、その際はインドの食糧会社が落札・納入している。

インド農村部での事業機会・現地からのレポート

nouvelle shinoise

インド農村の凄腕イノベーションとニーズはいっぱい」

http://d.hatena.ne.jp/shinoise/20091005/1254766638