特にBOPの場合はなおさら、程度の差こそあれ、地域紛争や内戦・テロなどの活動と貧困が互いを再生産するという実情がある。その点で、阪大の川崎和男教授がblog「資本主義からの逃走」で、「すでに、BOP-Businessを語り始めている輩に、何が出来るというのでしょうか。疑問です。その最大の理由はBusiness以前の問題があるからです。」とし、その問題解決のためにBOPで取り組むべきこととは「PKD=Peace-Keeping Design(平和を維持するためのデザイン)」と主張されている。
実はこれまでの本フォーラムでの議論は、企業が事業活動を行うことができる最低限の「平和(社会・経済・政治体制の安定)」を前提とし、「戦争状態」にある地域・国を暗黙的に除外していた。だが、真実をそのまま見つめれば、特にBOPではこれを暗黙的な前提とはできない。
たとえば本フォーラムで多くの情報をカバーしているバングラデシュにおいては、昨年12月のHasina政権成立以来それなりの安定を見せてはいるものの、その後もミャンマーとの国境付近やチッタゴン丘陵部では現在も不安定な状況が続き、かつて同国であったパキスタンでは数十名が死亡する自爆テロが発生している。
しかしながら、本フォーラムでは、BOP市場における「戦争の解消と平和の確保」そのものを第一義的目的とはしない。直接政治的手段を行使することによって能動的に平和を確保する活動は、残念ながら企業が主体となる事業経営の世界では外部環境となる。つまり、平和であるか否かは、「与件」として扱われ、最低限の平和が確保されている地域での事業活動を前提とするべく、政治的社会的リスクの察知と対応、リスクマネジメントを行うことになる。あくまで経済活動の発展によって貧困を緩和し、それが結果的に平和の「維持」につながる、というパスでの貢献に限定される。
ここに、企業経営を基軸において、ビジネス研究者や企業人がBOPを議論し活動する際の限界、境界線があり、真の意味での「包括性」は成立していない。PKDの視点に立てば、その中の極めて小さいヒトこま、を論じていることになる。根本的原因に対する姿勢が「甘い」と言われれば、現時点では甘んじて受けるしかないだろう。
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