2009年12月14日月曜日

リスクマネーとソーシャルマネーを組み合わせる投資スキームの重要性

もしも、BOPにおける事業戦略が経済的価値と社会・環境的価値の両立を目指すことをゴールと設定し、元来戦略理論におけるデフォルトのゴールであった「経済的価値の持続的増大」から一歩踏み出すのであれば、それに呼応して、いかなる資金がそうした事業には用いられるべきか、を考え直さねばならない、と常々思っていた。そこでヒントになったのがモニターインスティチュートによる「インパクトインベスティング」という発想である。

先にMonitor InstituteのImpact Investingに関する報告書をご紹介した。この報告書はCreative Commonsベースの著作権設定になっていて、オリジナルの出典を明らかにする限り、自由に派生的資料を作成すること(これら派生資料もCreative Commonsの取り扱いをする限り)が許されている。そこで、この報告書の理解を深めるために、Executive Summary p.5の表をいくつかの段階に分けて複数のチャートを作ってみた。その一端を紹介する。

Impact Investing 概念図その1:


1.縦軸に期待収益率(経済的パフォーマンス)、横軸に社会・環境上の期待効果を設定する。

2.左上の象限では、投資家が金融資産を運用・マネジメントし、いわゆるconventional assets(株式や債券など)への投資が行われている。投資家にとって許容できる最低限の期待利回りを下限とし、それを上回って投資リターンをさらに高めることがこの象限の投資の目的となる。すなわち、社会・環境上の期待効果は基本的に考慮の対象にない。もちろん投資対象の株式会社の事業がたまたま社会的価値を生み出しているかもしれないが、それは投資家の意図の範疇外の話である。
 もちろん、これらの投資家でも、営利企業が社会的・環境的に問題をはらんだ事業を遂行すると、事業の持続性が損なわれたり、かえって利益率が悪化したりする懸念を抱く場合もあり、その場合は(あくまで財務的リターンの向上に役立つ意味において)企業による社会的・環境的価値の実現を期待するだろう。また、リーマンショック以来、さらなる投資ポートフォリオの多角化に関心が高まっており、リターンは「きわめて高」くなくとも、最下限のリターンは確保しつつ持続性が高いBOPでの事業案件がもしあれば、それへの投資は十分な選択肢となるだろう。

3.右下象限の隅は慈善活動に投じられる資金を意味する。社会・環境上の期待効果水準は極めて高いが、財務的期待収益率はゼロ(もしくは、存在しないというべきか)である。左上の象限とは対極にある。また、こうした慈善活動に投じられる資金には、やはり最低限実現させたい社会・環境的効果の水準があり、それを下回る(左下の象限)ようであれば、投じられる資金は減じていくと考えられる。
 こうした慈善投資家・団体への寄付や国際機関からの援助金など、財務的リターンを求めない資金は、その流入量が不安定であり、左上の象限と比べると圧倒的に規模が小さい(かたや投資、一方は拠出金・貸付金なので直接比較できないが、いわゆる金融資産に投じられマネッジされている資金の世界合計が2008年末で約$90T=$90,000B=約7200兆円。一方、先進国のODA年間額(約$190B)、国連の開発関連諸機関の年間予算(約$10B)、米国のチャリティ合計($300B)を合わせても約$500B=約45兆円。)
 たとえば篤志家や政府からの寄付や給付が不況など何らかの理由で途絶してしまうと、支援活動も停止せざるを得ない。資金は常に枯渇状態に陥りやすく、お金がある限りは活動を続ける、というスタンスになる。また、活動に対し経済合理性に基づく厳格なガバナンスが働きにくい、ということも考えられる。
 (一方、利益を出すためには、より少ない入力で最大限の出力を得る努力が積極的になされ(経済合理性の追求)、その様は投資家によって厳しく監視されている。そして利益の上がる事業はより多くの資金を誘引するため、事業活動のスケーラビリティ(規模拡張性)がさらに高まっていく。逆に利益の見込めない事業には資金が集まらず、事業は持続できなくなる。)

4.報告書によれば、2の中に、"Type A: Financial first investors, who seek to optimize financial returns with a floor for social or environmental impact(最低限度の社会・環境的効果は確保しつつ財務的リターンを最大化しようとする投資家群)"が、そして3の中に"Type B: Impact first investors, who seek to optimize social or environmental impact with a floor for financial returns(最低限度の財務的リターンは確保しつつ社会・環境的効果を最大化しようとする投資家群)"が生まれてきている。

報告書が示す今後の課題(Executive Summary p.6)は、
1)パフォーマンス計測の共通尺度の策定や、集団的行動や情報共有を促進する投資家ネットワークの構築
2)インパクトインベンティングを専門とする投資の需給マッチングプラットフォームの構築
3)インパクトインべスティングの対象となり得るだけの潜在的パフォーマンス(経済&社会・環境)を持つディールフロー(事業案件)の生成・発掘


Type AとTypeBの資金を組み合わせる、マッチングさせるスキームは、BOPにおける大規模な社会問題を営利事業を通じて解消しようとする上で、大変重要な役割を果たすだろう。すでに米国ではロックフェラー財団の支援を受けてGlobal Impact Investing Networkが立ち上がっているが、日本ではまだ散発的小規模な試みしか見られない。

日本においても、こうした新たな性格の投資プラットフォーム(多種多数の資金の出し手、つまり投資ファンドや慈善家・団体が集う空間)の創生というスケールの大きな取り組みに期待したい。世界益を念頭に置きつつ、社会・環境価値のプロと財務・経営のプロが協働するアンブレラ組織が何か構想できないか、考えてみたい。

今回のイシューについては、他の機会にさらに詳細に論じることとしたい。

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