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2010年10月13日水曜日

Inclusive business 包括的ビジネス

最近の英語圏(一般的用法でなく、いわゆるleading institutionsでの言葉づかい)では、BOPで経済性と社会性の両立を目指すビジネスを、例外なく地球上すべての人々・プレーヤーを包含するという意味で、inclusive business(包括的ビジネス)やinclusive markets(包括的市場)といった用語で包含するケースが定着してきている(下記参照)。日本ではほとんど耳慣れない状況だが、本サイトでは、ブログの名称に「『包括的ビジネス inclusive business』」を併用することとする。

1.UNDPの2010年9月発行の報告書(いかにビジネスがMDGsの達成に貢献可能か)

2.WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)による包括的ビジネスに関するコンセプトビデオ

3.IFCによるBOPにおける事例集(2010年発行。金銭的な側面でなく、人の声を採録)

4.WBCSDとSNVのアライアンス

5.UNDPによる包括的市場・包括的ビジネスに関するサイト

6.ブログ「Next Billion」における包括的ビジネスに関するエントリー

2010年6月1日火曜日

㈱プロトムがバングラビジネスONLINE正式版をリリース

バングラデッシュビジネス専門のコンサルティング会社㈱プロトム(柴田 雄介社長)が、バングラデシュ現地紙からのニュース、同国専門家のコラムによるニュース解説、ビジネスマッチング情報の提供を本日6月1日、バングラビジネスONLINE(正式版)としてリリースした。本ブログのリンク欄にも掲載した。http://banbiz.jp/

これまで本ブログでは、BOP戦略の研究上価値があると思われる情報に関し、特にバングラデシュについては事実関係のみのニュースも比較的幅広く大意とともにアップしてきた。だが、上記プロトムのサイトは大変に見やすいサイトであり、ビジネスニュースがほぼデイリーに更新されている。今後もニュースソースのチェックは継続するが、本ブログでの記事紹介に関しては、より研究上含意のある記事の解釈、ビジネス以外でBOPに関連の深い記事、バングラデシュ現地紙以外の情報にフォーカスしてアップしていくくこととしよう。

2009年12月8日火曜日

「BOPビジネスとCSRを混同しないために」

藤井俊彦氏が最新のblogで、よく耳にするCSRに関する誤解を正確に修正・解説されています。最近、BOP関連で会話をしている際に、営利企業による社会貢献のための慈善活動(費用持ち出しで直接的には非営利。メーカーの植林活動など)を「ああ、それはCSRですね」といわれることがあります。藤井氏の一連の著作で説明されているように、本来の「CSR(企業の社会責任)」とは企業が本業として営む事業活動のプロセスにおいて、社会的に負の価値を生み出さないオペレーションを遂行することです(藤井2005)。

氏のBlogには、企業の対社会貢献(経済的貢献も当然含む)をMECEで3分類した結果が次のように記されています。(下記3点はBlogより直接引用。矢印と括弧内は本フォーラムで付加。)
  • 事業そのものを通じた貢献→(本フォーラムの検討対象。BOPにおける企業戦略で目指すもの)
  • 事業のやり方を変革することを通じた貢献→(事業プロセスにおける社会責任、CSR、企業の社会的責任)
  • 事業の結果得られた利益を社会に還元することを通じた貢献→(社会貢献活動、慈善活動)

  • 上記の分類は、CSRとBOPが目指すものの混同を避ける意味で、有益な分類と考えます。本フォーラムの10月21日のエントリーでも、下記のように述べていますが、根本的に藤井氏の主旨と合致します。
    「4)BOPにおける企業活動と企業の社会責任
     BOPにおける企業活動は、まさに存続をかけた「事業」であり、それ以上でも以下でもない。よって欧州発の本来のCSRで求められる「本業の事業プロセスにおける社会責任」(藤井2005)も当然ながら要求される。すなわち、BOPにおいて搾取的賃金の下で労働を強いたり、不当な低価格で原材料を調達したり、環境を破壊する収奪や土地開発を行うことなどは許されない。BOPでの事業を真の意味で成功させるには、その100%の保証とそれを支える信念・指導力が求められる。
     一方で、この「『事業プロセス』において果たすべき社会責任」と、BOPにおける事業活動を選択した企業が「事業目的の一つとして貧困解消を意図するか否か」は、別物である。前者は事業活動の場がBOPであるか否かに関わらず、より普遍的に要請される性質のものであり、後者は個々の企業が主体的に選択する問題であって、すべての企業がおしなべて要請されるタイプのものではない。」(岡田)

    2009年11月7日土曜日

    10月21日のエントリー修正

    BOPへの多元的アプローチの存在と本フォーラムにおける検討対象

    1)本フォーラムでの議論の対象

     昨今の「BOPビジネス」に対する関心の高まりを受けて、日本においても複数の論者によって様々な立場から「BOPビジネス」の一義的解釈が試みられたり、一定の立場から懸念や限界が指摘されたりしている。だが、異なる論者が各々異なる定義・含意で「BOPビジネス」という言葉を用いると、これは同床異夢で議論のすれ違いばかりが際立ち、実のある議論は望めない。

     たとえば、本フォーラムでは「BOPにおける企業活動」の成功には、1)利益の継続実現を追求すること、2)活動プロセスで社会責任を全うすること、3)手段もしくは目的として貧困削減に貢献していること、これら3つの要件を満たしていなければBOPにおける事業活動が「成功している」とはいえない、と考えるが、①単に担い手が企業であり地理的場所がBOPである活動、②上記3つの要件をすべて高い水準で満たしているBOPでの事業活動、③上記の要件をそもそも満たすつもりのないBOPでの事業活動、などをすべて渾然一体としてとらえ、一言で「BOPビジネス」と称して議論することは無意味だろう。重要な次元で異なっている複数の概念を混同したまま、「BOPビジネスとは、、、」という符牒化・一般化が試みられると、これは読む側に混乱を招くだけだ。よって本フォーラムでは今後「BOPビジネス」という言葉は原則として用いない。


    以下は、元のエントリーへ。

    2009年10月27日火曜日

    BOPにおける企業活動と「平和」の前提

    本フォーラムの検討対象を明確化しようとするエントリーをこのところ続けたが、これまでの議論で欠落していた視点がある。それは平和であるか否か、ということだ。戦争状態と貧困の因果については語るまでもない。

    特にBOPの場合はなおさら、程度の差こそあれ、地域紛争や内戦・テロなどの活動と貧困が互いを再生産するという実情がある。その点で、阪大の川崎和男教授がblog「資本主義からの逃走」で、「すでに、BOP-Businessを語り始めている輩に、何が出来るというのでしょうか。疑問です。その最大の理由はBusiness以前の問題があるからです。」とし、その問題解決のためにBOPで取り組むべきこととは「PKD=Peace-Keeping Design(平和を維持するためのデザイン)」と主張されている。

    実はこれまでの本フォーラムでの議論は、企業が事業活動を行うことができる最低限の「平和(社会・経済・政治体制の安定)」を前提とし、「戦争状態」にある地域・国を暗黙的に除外していた。だが、真実をそのまま見つめれば、特にBOPではこれを暗黙的な前提とはできない。

    たとえば本フォーラムで多くの情報をカバーしているバングラデシュにおいては、昨年12月のHasina政権成立以来それなりの安定を見せてはいるものの、その後もミャンマーとの国境付近やチッタゴン丘陵部では現在も不安定な状況が続き、かつて同国であったパキスタンでは数十名が死亡する自爆テロが発生している。

    しかしながら、本フォーラムでは、BOP市場における「戦争の解消と平和の確保」そのものを第一義的目的とはしない。直接政治的手段を行使することによって能動的に平和を確保する活動は、残念ながら企業が主体となる事業経営の世界では外部環境となる。つまり、平和であるか否かは、「与件」として扱われ、最低限の平和が確保されている地域での事業活動を前提とするべく、政治的社会的リスクの察知と対応、リスクマネジメントを行うことになる。あくまで経済活動の発展によって貧困を緩和し、それが結果的に平和の「維持」につながる、というパスでの貢献に限定される。

    ここに、企業経営を基軸において、ビジネス研究者や企業人がBOPを議論し活動する際の限界、境界線があり、真の意味での「包括性」は成立していない。PKDの視点に立てば、その中の極めて小さいヒトこま、を論じていることになる。根本的原因に対する姿勢が「甘い」と言われれば、現時点では甘んじて受けるしかないだろう。

    2009年10月26日月曜日

    「BOPビジネス」の多義性

     昨今の「BOPビジネス」に関する論評を見ると、そのとらえ方や定義が論者ごとに異なることがわかって興味深い。

    たとえば藤井(2009)は、「独り歩きする“美しいBOP”:社会貢献・利益追求の混同は危険」の中で、まずBOPビジネスをBOP1.0(BOPをモノを売る市場としてのみとらえる視点)のベースで定義している(そう定義しているのだからそれ自体は問題ではない)。また(本フォーラムと同様に)BOPビジネスは営利活動である、とも定義している。そのうえで、「『BOPビジネスとは貧困対策のために行うビジネスである』、と(中略)不必要に公共性を前面に出した誤解が広がりつつある。」と述べている。たしかに「BOPビジネス」をBOP1.0のモードで解釈する限り、そこに「貧困対策」という「公共性」を主張するのは、著者の指摘通り行き過ぎであり、誤解と言ってよいだろう。

    nouvelle shinoiseの最新エントリー「美化されるBOPビジネス…、甘い言葉に要注意」2009.10.26は、上記藤井(2009)と類似したタイトルであるが、BOPビジネスのとらえ方は異なっている。なぜならば、「美化されたBOPビジネス」として示されている事例が、英国の営利企業(Diageoというビール会社)が設立したDiageo財団による非営利のフィランソロピー活動だからである(注:財団法人は定義として非営利)。この場合、企業が設立した財団が地理的にBOPで展開する非営利の貧困解消活動も「BOPビジネス」の範疇に入る、ということになる。非常に広く「BOPビジネス」をとらえていることになる。

    一方、いわゆる「美しいBOP」とは無関係の論評であるが、日本総研の竹林正人氏による「BOP市場参入にみる企業の組織イノベーション能力」は、BOPにおける事業活動に対し、個々の企業はそれぞれの能力・意図に従って異なるアプローチをとるべき、という前提で議論されており、個別企業の異質性を前提とする本フォーラムの企業戦略の視点に大変に近い。

    このように、ある概念・考え方・現象が新たに議論され始めている現在、本フォーラムを含め背景の異なる論者ごとに同じ言葉が異なる定義を与えられている。そうした現象は十分に起こり得ることだ。従って、「BOPビジネス」に興味を持つ人々は、同じ言葉の含意が論者によって異なっていることを意識すべきである。さもなくば理解に混乱が生じよう。また、そのような異なる定義の下ではapple to appleの生産的議論が成立せず、水掛け論が生じることもあり得よう。これでは誰にとっても益がなく、本来目指すべき止揚も期待できない。

    繰り返しになるが、本フォーラムでは、BOPに対しては多様なアプローチの可能性があることを、そして多くの人間活動の背景には善意が存在することを前提に考えている。実務的・学問的背景の異なる論者が、建設的批判と生産的議論を行う素地が整っていくことを期待しよう。

    <参考文献>
    竹林正人(2009)「BOP市場参入にみる企業の組織イノベーション能力」日本総研Sohatsu Eyes2009年10月14日:
    藤井俊彦(2009)「独り歩きする“美しいBOP”:社会貢献・利益追求の混同は危険」国際開発ジャーナル, 2009年10月号, p.8-9.

    2009年10月21日水曜日

    「BOP」への多元的アプローチの存在と本フォーラムにおける検討対象

    1)本フォーラムでの議論の対象

     昨今の「BOPビジネス」に対する関心の高まりを受けて、日本においても複数の論者によって様々な立場から「BOPビジネス」の一義的解釈が試みられたり、一定の立場から懸念や限界が指摘されたりしている。だが、異なる論者が各々異なる定義・含意で「BOPビジネス」という言葉を用いると、これは同床異夢で議論のすれ違いばかりが際立ち、実のある議論は望めない。

     たとえば、本フォーラムでは「『BOP』における企業活動」の成功には、1)利益の継続実現を追求すること、2)活動プロセスで社会責任を全うすること、3)手段もしくは目的として貧困削減に貢献していること、これら3つの要件を満たしていなければ「BOP」における事業活動が「成功している」とはいえない、と考えるが、①単に担い手が企業であり地理的場所が「BOP」である活動、②上記3つの要件をすべて高い水準で満たしている「BOP」での事業活動、③上記の要件をそもそも満たすつもりのない「BOP」での事業活動、などをすべて渾然一体としてとらえ、一言で「BOPビジネス」と称して議論することは無意味だろう。重要な次元で異なっている複数の概念を混同したまま、「BOPビジネスとは、、、」という符牒化・一般化が試みられると、これは読む側に混乱を招くだけだ。よって本フォーラムでは今後「BOPビジネス」という言葉は原則として用いない。


     既存研究(別途論じるが、PrahaladやHart等をはじめとする一群の研究)では、「『BOP』における貧困解決と利益実現を両立させる」という文脈を前提としてきており、本フォーラムもその延長上に問題意識を共有している。本フォーラムでは「『BOP』において、BOP2.0の原則の下で、必要水準の利益を持続的に確保しつつ、社会問題(貧困解消等)解決にも資する事業」(企業の営利性と社会性に関するエントリーでいうところの「BOP2.0ベースの第5世代」)が成立する条件を検討対象にする。

    2)「BOP」への多元的アプローチの可能性

     「BOP」の現状を鑑みて、衆目の一致する目指すべき姿の一つは、「最貧層の地元経済が持続可能な形で発展し、一人ひとりの経済状況や幸福度が改善していくこと(貧困の解消)」にあるといえるだろう。だが、その手段としては、個々人の努力、国際機関、NPO、NGOによる活動、現地政府や先進国政府関連諸機関の活動、地元企業の活動、小規模ベンチャー企業、多国籍企業の活動と、多様な方法論およびその組み合わせが考えられ、それら様々な選択肢に試みられる価値があるだろう。

     本フォーラムは、それら多岐にわたる方法論の中で、特に多国籍企業の経営資源(製品技術、生産技術、経営ノウハウ、資金調達能力等多様なものを包含する)を活用した利益ベースの活動(詳細は後述するが、事業活動の持続性・拡張性を担保する原資の獲得と効率性の担保、および外部資金を誘引する力を確保するためには、利益の追求が必要という立場)を包含するアプローチに着目する。そして、このアプローチが成功する条件を明らかにしようとしている。

     さらにこのアプローチは、「BOP」の特性から必然的に、既存のNPO、NGO、地元企業、政府諸機関等と選択的に連携することを必要とするだろう。なぜならば、これまで「BOP」の諸問題に関与し解決してきたそれら主体との協力の必要性はあまりに高く、かつ学ぶべき知見もあまりに多いからである。ここにすでに顕在化している先進国・新興国市場との違いの一つがある。

     なお、昨今「ソーシャルアントレプレナー」「社会起業家」「社会的企業」と呼ばれる存在は、実態として非営利活動(NPO)と営利活動(株式会社)が混在した形で議論されている。だが、共に前提として「社会的価値の追求を経済的価値に優先する」と一般に定義・認知されている。だとすれば、あくまで利益確保を前提とする本フォーラムの趣旨とは完全には合致しない。

    3)「『BOP』市場における利益と持続性の確保」は、すべての企業が取り組むべき、もしくは取り組める、性質のものではない

     企業戦略論は、その大前提として個別企業の異質性を重要視する。すなわち、個々の企業により、保有する能力も資源も戦略的意図も様々に異なる、という前提である。

     「BOP」市場における事業活動とは、すでに顕在化した先進国・新興国市場と比べ、はるかに厳しい制約条件の下で遂行されねばならない。単にモノを売るだけでなく、雇用創出や現地経済の購買力向上も同時に実現させる様々な努力と工夫と覚悟(過去のエントリー「BOP2.0」)が必要である。不確実性やリスクも相対的に大きい。「『BOP』における利益創出と貧困解消の両立」というミッションについても、まずそれを事業ミッションとして選択するか否かが企業自身の選択に委ねられるし、さらに取り組んだとしても成功不成功の差が企業間で大きくつくだろう。

     すなわち本フォーラムで議論の対象とする「『BOP』における企業活動」とは、すべての企業に対しておしなべてそれへの取組みを推奨するようなキャンペーンとは質的に異なっており、企業が採り得る戦略上の選択肢の一つにすぎない。個別企業の異質性の前提に立てば、「『BOP』市場への取り組み」は個々の企業が主体的能動的かつ選択的に行うものであり、コンプライアンス(法令順守)や本業以外での社会貢献活動(フィランソロピー)、「環境にやさしい経営」のように、広くあまねく企業に求められるものと同列に議論することはできない。

     たとえば「BOP」において、営利企業が純粋に非営利活動として何らかの貧困解消事業/活動に取り組むこともあるだろう。しかし、それはいわゆるフィランソロピーの範疇に入るものであり、本フォーラムの検討対象にはならない。

    4)「BOP」における企業活動と企業の社会責任

     「BOP」における企業活動は、まさに存続をかけた「事業」であり、それ以上でも以下でもない。よって欧州発の本来のCSRで求められる「本業の事業プロセスにおける社会責任」(藤井2005)も当然ながら要求される。すなわち、「BOP」において搾取的賃金の下で労働を強いたり、不当な低価格で原材料を調達したり、環境を破壊する収奪や土地開発を行うことなどは許されない。「BOP」での事業を真の意味で成功させるには、その100%の保証とそれを支える信念・指導力が求められる。

     一方で、この「『事業プロセス』において果たすべき社会責任」と、「BOP」における事業活動を選択した企業が「事業目的の一つとして貧困解消を意図するか否か」は、別物である。前者は事業活動の場が「BOP」であるか否かに関わらず、より普遍的に要請される性質のものであり、後者は個々の企業が主体的に選択する問題であって、すべての企業がおしなべて要請されるタイプのものではない。

    5)「BOP」における企業活動において「貧困解消」は手段か目的か

     前項を受けて、「BOP」での企業活動における貧困解消の位置づけを考える。それには二つの考え方があり得る。第1は、事業目的そのものに利益創出と貧困解消を掲げ、それらの両立を図る考え方である。第2は、事業の目的はあくまで必要な水準の利益を持続的に達成することであり、貧困解消への取り組み(「BOP」における雇用機会・事業機会の創出による購買力の増大等)は、そのための必要条件・手段の一つとみる考え方である。いずれにせよ、貧困解消を顧慮せず、一方的にモノを売るだけのBOP1.0 では、既述のように事業の持続性確保は難しい。

     ここで事業の失敗がどう判定されるかを、それぞれのパターンで考察してみよう。まず、第1の考え方(事業目的として利益と貧困解消の両立を選択した場合)をとったとすると、求められる水準の利益を上げられないか、貧困解消の実現に失敗するか、もしくはその両方が果たされない時点で、「両立」に失敗したことになり、それはすなわち事業の失敗となる。第2の考え方であれば、事業を遂行する途上で、調達した資金の出し手(投資家)が期待する最低限の利回りを満たせなくなった時点で、事業は失敗したとみなされよう。

     結局のところ、貧困解消を目的の一つとして捉えても(第1)、手段と捉えても(第2)、結果的には貧困解消と利益が両立していないと、「BOP」における事業の成功は成り立たないことがわかる。どちらのアプローチを選択するかは、まさに個々の企業に委ねられる問題であり、こうすべき、という規範的判断は下せない。

    6)利益の役割

     「利益の追求」という言葉が否定的な意味合いで用いられることがある。そこには暗黙的に、利益というものは経営者や株主など、一部の利害関係者で独占されるという、漠然とした不平等感、被搾取の感覚があるのかもしれない。だが実際には、一口に利益といっても、そこには階層構造があり、多様な利害関係者に配分されている(下表)。例えば、営業利益の中からの配分先は、債権者(支払利息)、国や自治体(法人税・地方税)、株主(配当)、役員(賞与)、各種団体(寄付。もし行なうと意思決定するならば)、そして自社(将来への投資に使える内部留保)となる。


     すなわち上記の観点から、企業が生み出す利益を仮に営業利益(本業から得られる利益)と捉えると、

     第1に、利益はその事業を発展・拡大させていくために必要不可欠な投資の原資となる。継続的な利益確保が重視されるゆえんである。

     第2に、営利企業(株式会社)の場合、元本保証のないリスクをとった投資家から資金提供を受けていれば、その投資家(株主)が資金を投じる上で期待している少なくとも最低限の利回り(株価と配当もしくはそのいずれかを通じ)を実現させるため、経営者は利益獲得の努力を惜しんではならない。営利企業は、こうした投資家の意向に応えようとするからこそ、より大きな外部資金の誘引が可能になり、事業活動の拡張性を高めることができる。

     第3に、銀行等の金融機関からの借り入れによって事業維持拡大の資金を得ている場合、負債に対する利息を間違いなく支払うことにより、さらに信用が拡大し、より大きな資金の借り入れが可能になる。

     第4に、いうまでもなく、利益を課税所得のレベルでとらえれば、利益の増大に比例して納税額も増大する。これにより所得の再配分機能を通じて社会に貢献する。BOPの現地法人できちんと利益を上げることにより、より多くの税を納め、それによって現地社会に貢献する。(脱線だが、現在、日本では法人税収の落ち込みから子供手当の財源確保に四苦八苦しているし、例えばトヨタの業績不振は豊田市・田原市・愛知県の税収を1千億円単位で減少させ、公共サービスの継続が危惧されたりといった深刻な影響を与えた。)

     第5に、営利企業は多様な利害関係者の監視の下に置かれる結果、経済合理性の判断が強く求められる。特に株主(背景には株式市場)の存在は厳しいチェック機能として作用する。利益を上げるために求められる資源の有効利用や無駄の排除、徹底的なコスト削減能力などは、BOP市場での事業活動を成功させるうえでも、特に高い水準で求められるものだ。

     第6に、従業員の給与水準について考える。直接部門(主に製造部門)従業員の給与は売上原価にカウントされ、販売・管理部門の従業員給与は粗利益ベースで配分される。そして原価低減・経費削減の観点からは、常に人件費を低減させる圧力が働く。だが、先に述べた事業プロセスにおける社会責任とBOP2.0の観点から、「BOP」事業を成功させるためには、決して搾取的水準に陥ることなく、現地経済の購買力を持続的に向上させられるような適正水準で給与を支払うことが重要となる。

     総じて、「BOP」で事業に取り組む多国籍企業、およびそれと連携する地元企業や地元起業家も、共に事業の持続的拡大へ向けて努力し、そのためにも利益拡大に努めることが合目的的といえる。利益の持続的確保・拡大は、貧困解消をもたらす事業活動の継続を担保し、効率を高め、さらに拡張させる役割を果たすことができるだろう(その過程で「事業プロセスにおける社会責任」が要請されることは既述の通りである)。また、企業を取り巻く多様な利害関係者へも配分が行なわれ得る。各種利害関係者への配分比率の決定は、個別企業の選択に委ねられる部分もあり、まさにそこには個々の企業のミッションや理念が反映されるだろう。

    7)本フォーラムの取り組み

     上記の前提に立って、本フォーラムでは、多国籍企業の経営資源の活用を通じ、「BOP」市場に根差した事業活動を拡張させ、利益と社会問題の解決を両立するにはどのような条件を満たすことが必要か、を明らかにしようとしている。その中には、より実際的な成功条件(ビジネスモデル、提携パートナーの選択、望ましい資本構成等々)はもちろん、戦略理論で前提とされている企業の存在意義そのものをどう見直すべきかや、戦略評価基準の修正など、多くの課題が存在しており、それらはいまだ完全には解決されていない。これらのテーマを含め、研究対象としていく。(岡田)

    <参考文献>
    藤井敏彦(2008)「ヨーロッパのCSRと日本のCSR:何が違い、何を学ぶのか」日科技連出版社p.39-40.

    2009年5月25日月曜日

    本ブログについて

    「包括的ビジネス・BOPビジネス」戦略研究フォーラム(任意団体)
    (英語名:Inclusive Business Strategy Research Forum)
    設立趣意書

    ■ミッションと研究領域
     本フォーラムは、企業経営の視点から「BOP(the base of the pyramid)」市場をとらえ、企業がいわゆる「慈善的課外活動」ではなく、そのコア事業(本業)を通じて営利性と地球規模の社会的問題解決が両立し得る条件を研究する。その際、情報通信技術の有用性について、特に関心を持って考察する。

    ■問題意識と活動内容
      南アジア・アフリカを中心とする貧困(世界人口の収入ピラミッドにおいて年収3000ドル以下の40億人が世界人口の7割弱を占める)の解消 (alleviation of poverty)においては、国連機関や各国の政府開発援助(ODA)、現地政府の経済政策、そして様々なNGO/NPO活動が長らく中心的役割を果たしてきた。しかし、貧困解消事業の持続性・拡張性をさらに高めるためには、新たな方法の探索が求められている。
     本フォーラムが持つ仮説は、「企業の経済的価値最大化を前提として発展してきた経営諸学の知見と情報通信技術を活用した営利の企業活動を通じて、貧困をはじめとする世界規模の社会問題解決に対し、既存の方法論に加えて効果的な方法論を提供することができる」というものである。
     特に近年の情報通信技術(ICT)の発展は、これまで高コスト構造が壁となっていた「BOP」市場への参入障壁を著しく下げる役割を果たすことが考えられ、ICTの活用を念頭に、その効果を最大化する諸条件についても重要な研究イシューとする。
     こ の仮説を検証するため、本フォーラムでは経営諸学研究者のみならず、実際に「BOP」市場で活動する(もしくは活動を計画中の)企業、開発経済学分野の研究者、情報通信技術の研究者、実際に開発事業に携わるNGO等とのコラボレーションも図りながら、「BOP」市場における企業活動を成功裏に促進させる諸条件を探索する。

    ■組織
     当面は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科岡田研究室を本フォーラムの設立主体とし、オープンな研究活動を行う。将来的には、大規模外部資金の導入、メンバーシップ(研究者・企業)の設定により、さらに研究活動を発展させていく予定である。

    ■設立発起人
    岡田正大(おかだまさひろ 慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授)
    尾形英之(おがたひでゆき 慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士課程)
    栗原雄輝(くりはらゆうき 慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士課程)