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2013年1月30日水曜日

米国経営学会 アフリカ・コンファレンス

2013年の1月7日から10日まで、アメリカの経営学会(Academy of Management)で初めてのアフリカにおけるコンファレンス(AOM Africa Conference)が南ア・ヨハネスブルグで開催され参加。総勢300名の中で、アジア人は数名しかいなかったのが大きな驚きであった。他は半分がアフリカ諸国から、半分がイギリス、オランダ、アメリカ、ドイツ、オーストラリア、フランス等から。ケニア、ガーナ、タンザニアの研究者と親しくなる。

この会議は、アフリカにおけるビジネスと開発に関心を持つ研究者を対象としており、研究発表が3分の1、アフリカにおけるビジネスと開発について考える討論セッションが3分の1、フィールド観察が3分の1という構成で、通常の学会のような研究論文発表が主体となる形式とは趣を異にしていた。

フィールド観察には4つのコースが設定され、1.政治・社会と企業活動、2.多国籍企業、3.包括的(BOP)ビジネス、4.社会問題(文化や人種)に分かれて視察へ向かう。私は当然BOPを選択。タウンシップと呼ばれる「旧黒人居住区」へ赴いた(下記写真)。






このタウンシップにも、成功した個人事業者(アントレプレナーと呼べるだろう)がいて、チャイルドケア、レストラン、パン製造など、いくつかのスモールビジネスの成功例を見て回る。またタウンシップの中にも、正式な国籍と住所を持つ南ア国民としての居住区と、周辺国からの違法な移民(正式な住所を持たない)の居住区があり、両者の間の環境の違いは著しい。上記の写真は「正規の」国民の地域である。下記は違法な居住者の地域で、見学時に撮った映像。住居の間の隙間を歩いているように見えるが、これが主たる通行に使われる通常の道路である。かつてバングラデシュで訪れたダッカでも見た、都市スラム特有のよく似た雰囲気だ。




<雑感>

今回の会議参加を通じて体験的に学んだことの一端を挙げる。

1)やはり南アフリカは、いわゆるサブサハラの黒人主体の国々とは明らかに異なっている。例えば、今回の主催校であるビジネススクールの教員は一人のインド人を除いて全員白人。学生は7割が白人、3割が黒人という話。南アからサブサハラ諸国に出かける時、南アの白人の人々は「アフリカに行ってくるね」というとのこと。
2)白人富裕層と黒人との貧富の格差、意識の格差はとてつもなく大きい。
3)白人主導の経済の領域は、先進国のそれそのもの。

歴史的経緯が全く異なるので比較の対象にはならないが、アメリカではAffirmative Actionを始め、様々な人種融合政策がすでに実行され、一部ではそれなりの効果が出ていると感じられるが、南アではまだまだ実質的にはこれからという印象を受けた。ここでは書けない、表現しきれない深刻な問題が様々に存在している。




2012年8月21日火曜日

日本政府によるアフリカへの行動計画/TICAD

 ご承知のように、日本政府が主導し、国連・国連開発計画(UNDP)・世界銀行等と共同で開催されているアフリカ開発会議がある。TICAD IV 横浜行動計画(2008)が敢えて言えば米国のサブサハラ戦略書に匹敵するものと思われる(非公開の政策文書があるのであれば、それは知らない)。

 TICAD V は来年2013年。日本でも既に様々なイニシャチブが日本政府国際機関のみならず、市民セクターレベルでも始まっている。

TICAD IV (2008) 開会における福田首相(当時)演説:こちら

TICAD IV 横浜行動計画(2008)  PDF版はこちら
前文に続き、
1.成長の加速化
2.貿易・投資・観光
3.農業・農村開発
4.MDGs達成
5.教育
6.保健
7.平和の定着とグッドガバナンス
8.環境・気候変動問題への対処
9.パートナーシップの拡大

 上記各項目ごとに2010年から2015年までの行動計画が詳細に記述されている。内容的には大変に充実しているが、 米国の見せ方と比べると、日本のリーダーシップがあまり強く感じられないのは私だけだろうか。前文の5に日本政府の強い態度表明が登場するが、これを最初に言うべきという気もする。行動計画の別表には「実施主体」が明記されているが、様々な組織に分散している。これは共同開催という性格がそうさせているのだろう。TICAD V では政治・経済両面にわたって日本の明快で強いリーダーシップ・メッセージを期待したいところだ。

 素晴らしいのは、きちんとしたフォローアップがなされ、言いっぱなしにはなっていないこと。毎年進捗報告書が出ている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/tc4_followup10digest_jp.html

TICAD IVの動画を探したが、U2のボノのスピーチしか見つからなかった。

米国政府によるサブサハラアフリカへのコミットメント/国家戦略

オバマ大統領の2009年ガーナの首都アクラでの演説:


米国政府は、大統領の直接的指令の下に国家戦略としてサブサハラ諸国への政治経済上のコミットメントを表明している。上記2009年のオバマ大統領のスピーチを実行するため、既に進行中の様々なイニシャチブ(下記注)を統合する戦略構想として、「サブサハラアフリカへ向けた米国戦略(U.S. Strategy Toward Sub-Saharan Africa)」が大統領政策令(Presidential Policy Directive)として2012年6月に発表されている。

本戦略書に記述される4つの基本方針は下記の通りである。

1)民主的制度の強化
2)経済成長・貿易・投資の刺激・促進
3)平和と安全保障の強化・促進
4)社会的弱者への機会均等と開発の促進

4つは密接に因果関係を形成するが、特に2)と4)は本フォーラムのテーマである途上国低所得層における社会問題解決と営利ビジネスの両立にとって直接的に関わりがある。特に2)において、中小規模企業への支援をうたっているところが印象的である。

それにしても、あらゆる関連領域の政策群・イニシャチブ(下記一覧参照)を地球規模で効果的・重層的に組み合わせ、分厚い政策・国家戦略をパッケージング&プレゼンする能力が高いと感じる。


注)特に2)と4)に関連する米国独自ないし多国間イニシャチブとしては、下記のようなものが本国家戦略の記述内に登場する。

基本方針2)関連

Extractive Industries Transparency Initiative
Open Government Partnership
New Alliance for Food Security and Nutrition
Partnership for Growth
U.S.-East African Community Trade and Investment Initiative
African Growth and Opportunity Act beyond 2015
Generalized System of Preferences beyond 2013
African Competitiveness and Trade Expansion Initiative

Doing Business in Africa Campaign

基本方針4)関連
Presidential Policy Directive on Global Development
Global Health Initiative
Feed the Future
Global Climate Change Initiative
June 2012 Child Survival Call to Action
President’s Emergency Plan for AIDS Relief
President’s Malaria Initiative
AIDS prevention targets announced on World AIDS Day in 2011
African Women Entrepreneurship Program
U.S. National Action Plan on Women, Peace, and Security
President’s Young African Leaders Initiative

本国家戦略に関する政府主催公開討論会の模様:





2012年8月20日月曜日

「グローバル人材」なるもの

 日本では今、「グローバル人材育成」が花盛りだ。企業戦略の視点で今の現象を眺めていると、日本の伝統的大企業に求められているのは、単に個人のレベルで英語や中国語、特定国の事情に通暁している人材を育成することだけではなかろう、と感じる。

 企業戦略の視点からは、「地球規模市場の視点に立って、いかにすれば自社固有の資源をベースに経済的価値を最大化できるのか、新たな事業機会は何なのかを洞察する能力・時代感覚・識見・感覚」が肝要だろう。これが現時点での、企業戦略の観点から求められる「グローバル人材」の真価と思われる。「現状打破のリスクを恐れない、地球規模の戦略感覚を持ったリーダー」が求められている。

 その上で、各地域別・機能別の分業体制が敷かれ、それに応じた特殊能力の育成が必要になるのは言うまでもない。

 当研究室がアフリカへの調査を複数回行う(今後も)のは、何もアフリカが有望市場だからという単純な理由だけではない。より上位の文脈として、地球規模で戦略を発想する際に必要不可欠な情報量が、圧倒的に不足しているのがアフリカ諸国だ、という自覚があるからだ。多くの経営幹部との対話を通じ、地球規模で事業機会を発掘し、意思決定の俎上に載せようという際に、同地域に関する知見がいまだ十分に集積されていないケース(研究者としての私自身を含む)が非常に多いと感ずるからだ。(もちろん先進的例外は日本にも少なからずあるが。)

 であるから、ある企業がアフリカへの知見を深めたとしても、経営意思決定の結果としては、その企業にとってはアフリカの特定の国々は戦略上の優先順位が低いと判断され、「現時点では関与せず」という結論も当然あり得る。しかしそれが全地球的に複数の事業機会を十分に精査した結果の合理的判断であれば、それで全く問題はない。

 問題なのは、情報不足故か個人的好み故か、特定の地域(例えばアフリカのサブサハラ諸国)を無意識に最初からオミットしてしまい、自社の「潜在的」活動領域を自ら狭め、事業展開の可否判断の俎上にすら乗せないことである。


2012年7月9日月曜日

DHBRオンライン新連載第1回 「包括的(BOP)ビジネスとは何か特別なもの?」

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・オンライン

【新連載】第1回:包括的(BOP)ビジネスとは何か特別なもの?

がスタートしました。戦略理論の視点から、企業が包括的ビジネスに参画するか否かの判断基準を多元的に議論するコラムです。

http://diamond.jp/articles/-/21237

2012年1月2日月曜日

心地よい領域から踏み出して70億人市場へ:日経ビジネスオンライン

日経ビジネスオンライン記者の中野目氏に取材を受け、「地球上70億人を対象にビジネスを開拓する戦略的意図」の重要性を述べたインタビュー記事です。

日本企業が「包括的市場を含む地球全体的視野」に立って、本当に戦略を構築できているのか、というメッセージを投げかけています。

インタビュー記事ですので、反映できていない部分もありますが、補足するならば、70億人市場へ取り組む際に、戦略論上最も重要なのは、「自社独自の経営資源」「自社が最も得意なドミナントロジック」に着目することです。

2011年4月20日水曜日

東日本大震災と包括的ビジネス(BOPビジネス)

今回の未曾有の震災は、現在も多種多様で深刻な課題を企業社会に突き付けている。先進国では当たり前だった与件が深く変質してしまった今、企業はそのビジネスや業界の特性に応じて、単にリスクや危機管理体制を見直すにとどまらない戦略再構築を迫られるだろう。例えば、集権的に制御されたエネルギー網や集中制御型ビジネスプロセスそのものを見直す必要が生じている。

本エントリーでは、大震災が企業に突き付けた問題と包括的(BOP)ビジネスへの取り組みがオーバーラップする部分、さらには企業の取り組みとして相乗効果が期待できる部分を議論したい。

実際のところ、東電による計画停電中だった我が家で最も活躍したのは、他ならぬタンザニアで購入してきたBOP向けのソーラーランタンだった。またパナソニックグループの三洋電機は現在アフリカで拡販中の自社製ソーラーランタンを4000台被災地へ贈り、またパナソニックもBOP無電化地域向け設備を被災地へ提供した。考えるきっかけはこうした単純な事実である。

考えてみれば、包括的ビジネスの舞台であるBOPにおいては、BHN(Basic Human Needs)の未充足が大きな問題である。それはMDGsとして明示的に認識されてもいる、それらの問題解消が包括的ビジネスの大きな目的の一つである。一方今回の日本の震災地でも、先進国では空気のように当たり前の存在だった「エネルギーへのアクセス(Access to energy)」が、当たり前でなくなった
。その意味において、BOPと同様の事態が今現在の日本で発生している(無論、経済力が圧倒的に大きな日本において、地理的にごく部分的な範囲でエネルギー網が破壊されても、その修復は包括的市場に比べればはるかに速いスピードで改善が図られる事は言うまでもないが。)

すなわち、

1)今回の震災を機に、日本の企業社会は、「エネルギーは無限かつ安定的に供給されるものだ」という意識・無意識の与件が盲目的神話にすぎなかったと体験を持って自覚した。⇒分散自立型へのシフト(転換ではない。製品戦略、オペレーション体制の抜本的再構築へ)

2)日本企業・国民は、東北被災地での体験(社会資本の全喪失、
停電は400万世帯)や、それに比べれば影響はごく微小ながら、5日間で東電管内約1,000万世帯で生じた計画停電を通じ、社会資本がほんの一部でも欠如すると、それを当然の与件として成立していた社会ではいかに重大な問題が生じるかを、今更ながら体験を伴って思い知らされた。

3)包括的ビジネスは元来、集中制御型のエネルギーアクセス網のない地域でいかにBHNを充足し、かつ利益を確保するかを狙いとしており、日本の被災地の現状改善と包括的ビジネスの対象コミュニティはある意味で似通ったニーズを持っている。⇒短期的類似性、ならびに補助金等への依存だけでなく、営利ビジネスを通じた問題解決(例えば雇用創出)の重要性も共通。

4)また、日本の被災地におけるBHNの改善は一定期間(5年位?)で終了するが、その後も「災害によるBHN喪失、事業インフラ喪失への備え、安定的な分散エネルギーの確保」へむけて社会構造が変わり、ビジネスもそれを前提に構築されるる可能性が高い。⇒長期的・構造的類似性

5)上記のことからBOPへ向けた製品・サービスの開発と、今後の日本社会のニーズとは相乗効果が高まっていく可能性がある。(これをリバースイノベーションというか否かは微妙だが)

6)例えば
分散エネルギー分野や防災関連設備・製品では、BOP向け製品との間には相乗効果が多々想定できるだろう(コミュニティ向けレベルと個人向けレベルの双方で)。例えば、個人レベルでは簡易浄水器、浄水剤、簡易ソーラー・水力発電装置(動力源、熱源、照明・携帯電話充電)、簡易衛生・医薬用品、水のない場所での衛生確保用品等)⇒防災備蓄用品・防災システム・分散電源ベースの日常生活という新しい成長産業。コミュニティレベルでも分散エネルギーベースの浄水・揚水機能や電力源等々で新たな市場拡大。

与件が変質したnew normal の下で、包括的ビジネスと復興事業の相乗効果が何かの形で具体化してくることを期待したい。こたびの大震災によって、包括的ビジネスと日本企業の心理的距離は確実に縮まったのではないか。

2010年10月19日火曜日

「BOP」ビジネスの着想プロセス(その1)

本エントリーはあくまで随想的なもの。

ゼロベースでBOPビジネスを「起業する」ことももちろん選択肢の一つだ。が、ここでは「既存の株式会社が新たにBOPでの事業に取り組もうとする」ケースを考えてみる。

ケースは二つに分かれるだろう。

第1は、これまでいわゆるBOP層(年間個人消費額3000ドル以下の貧困層、2002年PPP)をターゲット市場としたことなど夢想だになく、ゼロから考慮し始める場合。

第2は、自社の歴史の中で、BOPが話題になるはるか昔から取り組んでいた途上国でのビジネスが、どうも昨今注目される「BOP」ビジネスそのものなのではないか、と認識しているケース。またはそうした方向へ再解釈すれば、BOP関連事業に対して昨今充実しつつある様々な資金調達環境も有効に活用でき、さらなる事業発展が見込めるのではないか、と思われる状況である。

いずれの場合も、最初の確認事項は、既存事業で培った何らかの経営資源や能力が、MDGsの7つのジャンル(1~7)にまたがる11のターゲットのいずれかの達成に関連しているか否か、だろう。無論MDGsがBOP市場の社会課題を現実的にすべて網羅しているとは言えないが、相当程度にカバーしているとは言えるだろう。(MDGs以外の社会問題の可能性を完全に捨象してしまうのは、それはそれで望ましくない。)

ちなみにMDGs1~7は、下記の通りである。これらをじっくりにらんで、自社の経営資源の適用可能性を吟味することが第一歩となるだろう。

1極度の貧困と飢餓の撲滅

  ターゲット12015年までに11ドル未満で生活する人口の割合を1990年の水準の半数にする。

  ターゲット22015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数にする。
2:初等教育の完全普及の達成

  ターゲット32015年までに、全ての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする。

3ジェンダー平等推進と女性の地位向上

  ターゲット42015年までに全ての教育レベルにおける男女格差を解消する。

4乳幼児死亡率の削減

  ターゲット52015年までに5歳児未満の死亡率を1990年の水準の3分の1に削減する。

5妊産婦の健康の改善

  ターゲット62015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減する。

6HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止

  ターゲット7HIV/エイズの蔓延を2015年までに食い止め、その後減少させる。

  ターゲット8マラリア及びその他主要疾病の発生を2015年までに食い止め、発生率を減少させる。

7環境の持続可能性確保

  ターゲット9持続可能な開発の原則を国家政策に反映させ、環境資源の損失を減少させる。

  ターゲット102015年までに安全な飲料水及び衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減させる。

  ターゲット112020年までに、少なくとも1億人のスラム居住者の生活を大幅に改善する。

2010年6月9日水曜日

企業と社会的価値の関係(その2):持続的競争優位の源泉と裁量的責任

ひとつ前のエントリーで、企業が社会的価値を追求する場合、それは一段上の文脈の中で捉えてはどうか、と書いた。だが、ここで誤解されないように指摘したいのは、そうしたBusiness Call to Actionに署名する企業には限りがあるだろうし、たとえ署名しても宣言の趣旨に沿った実効性ある事業活動を行う、もしくは行えるとは限らない、という点だ。これは本フォーラムの2009年10月21日の第3項「『BOP』市場における利益と持続性の確保」は、すべての企業が取り組むべき、もしくは取り組める、性質のものではないで指摘しているように、貧困削減を伴う営利事業は、おしなべてすべての企業に対し、制度化された社会規範として取り組みを奨励できるたぐいのものではない。

この種の事業への取り組みは、Carroll(1979)による企業の社会的責任分類に基づけば、第4分類の「裁量的責任(discretionary responsibility)」を包含するもので、あくまで個別企業の選択の問題となる。分類の定義によれば、たとえこの事業に取り組まなかったからといって、「非倫理的である」と非難されることにはならない。

私の専門分野である戦略理論の視点から述べれば、企業が貧困解消を伴う収益事業に取り組むべき場合は、それがその企業の持続的競争優位の源泉となりうるときのみ、ということになる。この点については、Porter and Kramer (2006)*等をベースに厳密な議論を必要とするので、改めて論文等で世に問うことにする。

*Porter ME, Kramer MR. 2006. Strategy & society: the link between competitive advantage and corporate social responsibility. Harvard Business Review December 2006: 1-13.

企業と社会的価値の関係(その1):「BOPビジネス」を取り巻くより大きな文脈としてのMDGs&Business Call to Action

企業が途上国の低所得層を対象に事業展開する以上、貧困状況の改善に何らかの役割を果たすことが、事業の持続的成功(経済的成功)のために必要なことは疑いない。だが、企業自身が声高に自社事業の社会性を前面に押し出して喧伝することには、程度の問題ではあるが、外部から見て何らかの偽善を感じる向きもあるだろう。

というのも、企業活動の最も重視されるべき本来の社会的役割(基盤となる役割)は、その経済的責任(人の集まりとしての社会に不足しているもの、すなわち市場ニーズに応える商品やサービスを製造・販売し、その過程で事業の継続・拡張を担保する利益、出資者の期待に応える水準の利益、そして雇用を生み出し、納税をすること)*であって、採算を度外視した無私の社会貢献活動ではないからだ。

とはいえ、環境回復や貧困問題解消の重要性が、これだけ深刻に地球規模で知覚されることはかつてないわけで、こうした環境的・社会的問題に企業が背を向けられる時代はとうに終わっている。

その文脈で細々と展開しているのが国連のUNDPがイニシャチブをとっているBusiness Call to Actionである。その趣旨は「国連MDGsの達成に向けたプロセスを加速するために民間企業セクターによるBOP市場(base of the pyramid markets)への投資を奨励」することにある。(The BCtA seeks to accelerate progress toward the achievement of these goals by encouraging private sector investment in base of the pyramid markets.) ここは「寄付」でなく「投資」という言葉を使っていることから、採算性を担保した事業活動が想定されていると解釈すべきだろう。

ちなみにこの宣言に2007年、2008年で署名している企業・団体は合計約60社にとどまっている。 日本企業では住友化学と三井物産だけだ。また、現段階ではこれら2社の日本企業は利益を追求しない姿勢でこの行動要請宣言に臨んでいる。しかし、この宣言に見られる企業の「投資活動」によるMDGs達成への役割期待は、明らかに昨今騒がれる「BOPビジネス」(貧困問題の解消を伴う収益事業)の背景であり、上位にある文脈だ。

つまり、1企業が個別企業レベルで、あたかも経済価値と社会価値の2正面戦略をとることに何らかの無理を感じざるを得ないとすれば、企業の営利活動が「より上位の文脈の、社会的問題解決への大きなスキーム」の一端を担っていると考えれば、企業による「BOP」事業の持つ「社会的価値・意味」を説明・理解しやすいのではないだろうか。

こうした「制度的規範」と、個別企業の持続的競争優位を統合する論理が、新たな企業戦略理論につながるかもしれない。

*Carroll AB. 1979. A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review 4(4): 497-505.
上記論文によれば、企業の社会的責任は以下の4つに分類される:
1.経済的責務economic responsibilities):社会のニーズに応える製品・サービスを作り出し、資本の確保と事業継続に必要な水準の利益を実現しながら供給・販売すること。その活動を通じた納税と雇用創出。企業にとって最もfandamentalな社会責任。
2.的責務legal responsibilities):社会の定めた法制度や規制の枠組みの中で経済活動を営むこと。例:労働関連法令、環境規制、知的所有権法令等の順守

3.倫理的責務ethical responsibilities):法的水準を超える倫理的要請 例:フェアトレード、労働衛生環境のさらなる整備、適正な給与水準、カウンセリング、食事提供等

4.裁量的責務discretionary responsibilities):個々の企業の裁量・自発的選択に委ねられ、参画しなくとも非倫理的とはみなされない。 例:さらなる雇用創出を目的とした製造現地化や販売網構築、社会的価値の高い製品サービスの選択、純粋な慈善活動

2010年1月28日木曜日

「ボトム」でなく「ベース」

いったんメジャーなメディアが「ボトム オブ ピラミッド」とやってしまうと、それがそのまま伝播してしまう例:

日本の大手食品・日用品メーカーが、世界を視野に入れた「世界ブランド」に経営資源を集中させ始めている――という記事が、日本経済新聞で大きく紹介された(2009年12月20日付け朝刊)。、、、(中略) 『BOP』(ボトム・オブ・ピラミッド)ビジネスと呼ばれ、主に欧米の大手企業で注目されている。」(ダイヤモンドオンライン 2010年1月28日)

新聞記事での注釈が盲目的に、そのまま次のメディアでコピーされ、広がっていってしまう。

インドのメディアではまだ半々くらいの印象だが、実際のところ、現地へ行ってその国の人々(例えばNGO)と対面で議論した際には、ボトムであれベースであれ、BOPという言葉自体ほとんど使える雰囲気ではなかった(少なくとも私の場合)。those who are economically challengedとか、relatively poorer peopleといった言葉をずっと使っていた記憶がある。

2010年1月20日水曜日

「ボトム」でなく「ベース」で

雑感

先日、他分野の研究者に「BOP」という言葉を使ったら、「ボトムとはなんだか見下した感じで嫌だね」といきなり言われてぎょっとした。いったん日本の主要メディアでボトムとなってしまうと、その伝播力たるやすさまじ、だ。この手の反応(bottomという言葉への違和感)は英語圏ではすでに過ぎ去り、"base" of the pyramidという言葉へ転換することで解消したと思っていただけに驚いた。

前のエントリーでいくつか記事を紹介したが、上の会話の数日後、日経のメディアが総じて判を押したように「BOP」を「ボトム・オブ・ピラミッド」と表記していることに気付いた。中には加えて「経済ピラミッドの底辺」という注釈もある。語感がどうも悪い。ボトム、底辺。。。東洋経済は現在英語圏で定番化している「ベース・オブ・ピラミッド」を用いている。 槌屋さんが出ていらしたNHKの番組でもフリップには「ボトム」と表記されていて、アナウンサーは「ボトムオブザピラミッド、あ、いえ、ベースとも言いますが、、」と言いよどんでいた。

たしかに、象徴的著作であるプラハラッドのネクストマーケット発刊当時はBottomという言葉を用いていた。だが最近の様々な記事・論文に接している頭の中では完全に「at the base of the pyramid」という語法が頭に刷り込まれているので、いまさらボトムと言われると妙に古めかしい感じがする。

そこでgoogleで調べてみた。検索語句 を「"bottom of the pyramid"+business」とすると、検索結果は16万件、「"base of the pyramid"+business」に変えて検索すると223万件。(+business を入れたのは、考古学などの検索結果を排除するため。もっともすべて排除できないが。)

要は、実際の用法の大勢はbaseに移っていると思われる。特に、研究者や大学の世界では死語になっているという認識だ。たしかに英語版のWikipediaではbottom of the pyramidの項の中で「しばしばbase--ともreferされる」、と書かれているが、今では「 かつてはbottomと言われた、、、」が正確だろう。 プラハラッドと並ぶこの分野の立役者であるコーネル大ビジネススクールのStuart Hart教授はbottomという言葉への違和感から、すでに2002年の著作でbaseという言葉を用いている。BOP Protocolも最初から"base"だ。やはり英語圏の語感としても、bottomというのはあまり印象が良くないと皆感じているのだろう。日本語では「ベース・オブ・ピラミッド:経済ピラミッドにおける基底部分」とするのが適切だと思う。

言葉使いなどどうでもよい、という声もあるだろうが、こうしたちょっとした言葉遣いがこの分野の活動に対する認識や従事する人々の意識に影響することもあろう。日本での関心が高まりつつある今だからこそ、メディアでの言葉づかいは大事だと思う。